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- 金融不安が迫る「質への逃避」
シリコンバレー銀行(SVB)問題の余波は直ぐに収束しないだろう。ただし、SVBの破綻は当局の営業停止命令を受けたもので、米国政府の管理下で処理が進められている。従って、各種指標を見る限り現段階でパニックが起こっているわけではない。今後の焦点は取り付け的動きの連鎖を止めることだ。その後は、ストレステストの実施など、金融機関の健全性が問われるだろう。
SVB発の金融不安:当局の対応がパニックを抑制
インターバンク市場のリスクに反応するLIBOR-OISスプレッド(LIBOR3ヶ月物)は、リーマンショック期の2008年12月19日、金融不安を反映して1.02%ポインへと拡大した。また、昨年11月10日に0.74%まで上昇したが、これは長めの金利がFRBによる利上げを織り込んだ結果だ。SVBが巨額損失を発表した3月8日は0.37%ポイントだったものの、足元は0.21%ポイントへとむしろ平均的な水準へ回帰している。
一方、S&P500のインプライドボラティリティであるVIXは、新型コロナ感染第1波で金融市場が混乱を極めた2020年3月16日、82.69の史上最高値を記録した。過去20年間の平均は19.32、標準偏差8.73だ。米国のSVB問題が飛び火、欧州においてクレディ・スイスの経営不安が伝えられた3月15日は26.14なので、LIBOR-OISスレプッド同様、現時点において市場がパニックに陥っていると示しているわけではない。
SVBの特徴は、資産のポートフォリオがベンチャー企業向け融資と債券投資に偏っていたことだ。新型コロナバブルの崩壊とFRBによる利上げで貸し先の新興企業の経営が悪化した上、長期債の価格が下落、損失が急激に膨らんだと考えられる。ただし、その破綻はカリフォルニア州金融保護及びイノベーション局(DFPI)によるものであり、米国財務省、FRB、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下において処理が進められている。ジョー・バイデン大統領は、2月13日、預金の全額保護を明言、取り付けによるシステミックリスクの抑制に強い意欲を示した。さらに、スイス国立銀行は、クレディ・スイスへの500億フランの貸付を発表している。
各国の政府・中央銀行による素早い対応は、市場が動揺しつつもパニックには陥っていない重要な背景だろう。まずは取り付け的な動きの抑制が、最優先の政策課題と見られる。
動揺鎮静化後に本格的な収拾策:「質への逃避」が産業の新陳代謝を促す
事態の本格的な収拾は、金融市場の動揺が一段落してからだろう。米欧の金融監督当局は銀行にストレステストを実施、政策金利が上がったなかでの経営リスクの把握が進められると見られる。その過程において、銀行は不良債権及び債券含み損の処理を迫られることが想定され、財務体質の脆弱な企業や新興企業が、新たな資金調達において困難に直面する可能性は否定できない。
2021年末に4.74%だったS&Pハイイールド社債インデックスの利回りは、昨年9月29日には9.47%へと4.72%ポイント上昇した(図表2)。この間、10年国債の利回りは2.28%ポイントに止まる。FRBの利上げを背景に、低格付け企業に対する市場のリスク許容度は低下したと言えるだろう。
今回の金融市場の動揺は、結局のところ「質への逃避」を促すのではないか。それは、新型コロナ禍の下における歴史的な金融緩和の後始末に他ならない。金利の上昇に耐え切れなくなった企業が淘汰されることにより、産業の新陳代謝が進み、次の成長過程が始まると考えられる。
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