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- 米国長期国債が示す波乱の予兆
米国の長期国債には2つの波乱を示す予兆がある。1つはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)だ。連邦債務の法定債務の上限引き上げが政治的駆け引きで滞り、債務不履行のリスクを市場は織り込みつつある。もう1つは過去最大となったヘッジファンドによる空売りのポジションだ。いずれも市場が不安定化する可能性を示すシグナルと言え、当面、注意が必要なのではないか。
米国長期国債のCDSレート:史上初の連邦債務不履行を意識か?
米国の連邦債務は既に法定上限に達したが、ジョー・バイデン政権と共和党の対立で上限引き上げのメドは立っていない。1月13日、ジャネット・イエレン財務長官は共和党のケビン・マッカーシー下院議長に書簡を送り、特別措置の実施を報告した。それ以降、長期国債のCDSは急上昇し、過去最高の水準にある(図表1)。マーケットは、米国連邦政府が史上初の債務不履行となるリスクを織り込みつつあるようだ。
バラク・オバマ政権下でも同様の状況になったが、2011年8月2日、与野党の妥協により『2011年財政管理法』が成立、連邦政府のデフォルトを辛うじて回避した。しかし、その直後の8月5日、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国長期国債の格付けを最高位の「AAA」から「AA+」へ格下げし、この時は世界的に株価が大きく下落している。
今のところ、バイデン大統領と共和党の間に合意へ向けた環境が醸成されているとは言い難い。連邦上院議員36年の経験を誇るバイデン大統領が現時点で共和党との協議を否定しているのは、話し合いが早いと失うものが大きくなる可能性が高まるからだろう。仮に妥協が成立するとしても、債務不履行が目前に迫る7月以降になる可能性は否定できない。
また、共和党内におけるマッカーシー議長の指導力が弱いだけに、バイデン大統領と同議長との間で合意が為されても、大量の造反により法案が成立しないリスクもある。4月25日、イエレン財務長官は、債務不履行が「経済的な大惨事になる」と警告した。現在の米国の政治状況に鑑みると、同長官の懸念はかならずしも杞憂とは言えないだろう。
米国経済:堅調だが今夏に向けては政治的なリスク
米国長期国債に関するもう1つの異常な動きは、ヘッジファンドによる空売りのポジションだ。米国商品先物取引委員会(CFTC)によれば、4月18日現在、10年国債先物のネットショートは123万5,061枚で過去最大になった(図表2)。
ヘッジファンドは、インフレ圧力が構造的であり、FRBが利上げを停止したとしても、当面、利下げは行われないと見ているのではないか。それが市場のコンセンサスになれば、イールドカーブは右肩上がりに修正されるとの判断と考えられる。
もっとも、過去の例では、ネットショートになった後、買戻しによりむしろ長期金利は低下することが多かった。雇用の逼迫を背景に賃金上昇率は高水準を維持すると見られ、米国経済は基本的に堅調と見られる。ただし、目先的には連邦債務の上限問題により景気の先行き不透明感が強まることも考えられ、当面、長期金利には下押し圧力が掛かりそうだ。
米国国債のCDSレートが過去最高水準へ上昇し、長期国債のショートポジションも歴史的なレベルに達していることから、何かを契機としてマーケットのボラティリティが急速に高まることも想定しておくべきではないか。米国経済のファンダメンタルズは強いものの、今夏については、連邦債務の上限を巡る政治的な対立が先行きの予想を難しくしており、市場に大きな混乱が起こり得ることへの備えが必要だろう。
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