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物価が暗示する円安・ドル高
市川 眞一
2023/06/30

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概要

日本のインフレは新たな段階を迎えた。エネルギーなど資源主導の物価上昇から、輸入コストや賃金の価格転嫁が要因となっているからだ。日銀が意図したシナリオとは異なるとしても、インフレは米欧諸国同様に構造化しつつある。一方、日銀は大規模緩和を維持しており、名目、実質の両方で日米金利差が拡大した。これは、円からドルへのマネーフローを通じた円安要因と言えよう。



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■ 消費者物価上昇の中身に変化の兆し

総務省によれば、5月の消費者物価は、総合指数及び生鮮食品を除くコア指数の上昇率が共に前年同月比3.2%だった(図表1)。一方、生鮮食品とエネルギーを除くと同4.3%の上昇である。

 

 

総合指数の上昇率が今年1月の4.4%をピークにやや低下したのは、エネルギーに関する2つの要因が影響した。その1つは、岸田政権が昨年10月に決めた『電力・ガス価格激変緩和対策』に他ならない。電力の場合、2月検針分から家庭向けで1kWh当たり7.0円、企業向けでも同3.5円分の補助金が電力会社に払われている。これで5月は消費者物価が0.7%ポイント程度押し下げられた。

2つ目の理由は、原油など資源価格の国際的な低下だ。WTI原油先物は、5月、前年同月比40.6%、円ベースでも同35.7%下落した(図表2)。原油価格は3~6ヶ月遅れて消費者物価に反映されるため、その影響が本格的に物価に寄与するのはこれからだろう。

 

 

もっとも、電力・ガス価格激変緩和対策は10月検針分で終了する。また、一般電気事業者10社のうち中部、関西、九州の3社を除く7社が6月より規制料金を値上げした。従って、今秋にも電力・ガスは物価全体に関してニュートラルとなるだろう。

一方、5月の消費者物価上昇率の内訳は、財の寄与度が2.4%ポイント、サービスの寄与度が0.8%ポイントだった。サービスに関しては、電力・ガス・水道料金の寄与度が▲0.7%ポイントであり、持ち家の帰属家賃と電力・ガス・水道料金を除いたベースでは総合指数を1.5%ポイント押し上げた(図表3)。サービス産業は相対的に労務費率が高く、足元の賃上げの影響も一因と考えられる。

 

 

他方、米国の5月の消費者物価上昇率は前年同月比4.0%だった。日本の場合、電力・ガス価格激変対策を除けば、総合指数の上昇率は3.9~4.1%程度と見られ、既にほぼ拮抗する状態だ。

 

 

■ 円安の主因となる実質金利差

日米間の物価上昇率が接近する一方、金融政策の違いで両国の短期金利は名目ベースで5%ポイント程度へと拡大した。物価上昇率を加味した実質ベースでも、既に米国の短期金利が日本を大きく上回る状態だ。円/ドル相場は日米の実質短期金利差に連動する傾向があり、ファンダメンタルズから見て、現状はドル高・円安が進み易い条件が整っていると言えそうだ(図表4)。

 

 

海外ファンドは、FRBが利上げを開始した昨年3月以降、円で資金を調達し、ドルやユーロで運用する円キャリートレードを拡大、それが1ドル=150円台に至る原動力になった。もっとも、昨年12月の政策決定会合で日銀が10年国債の利回り変動幅を拡大、日本の金融政策が修正されるとの観測から、円売りポジションは解消されたと見られる。4月10日、植田和男総裁が就任会見で大規模緩和継続の意向を強く滲ませたことで、再び円キャリートレードが活発化している可能性は強い。

財務省は円安の加速に警戒件を示し、介入の可能性を示唆している。しかしながら、日米の消費者物価上昇率がほぼ同水準となる一方、政策金利に大きな違いがある以上、円安の流れを止めるのは難しいのではないか。物価、そして金融政策は、円安継続のシナリオを示していると考える。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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