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- パレスチナより注意すべきリスク
イスラム教過激派ハマスによるイスラエルへの攻撃は衝撃的で、国際金融市場ではリスクオフのムードが高まった。しかし、パレスチナ問題よりも世界経済にとり厄介なのは、米国の政治ではないか。共和党の内紛で下院議長の選出に手間取った。2024会計年度の予算は未成立で、11月17日にはつなぎ予算が期限切れを迎える。政府機関の閉鎖など、混乱のリスクは消えていない。
■ 4人目の候補で決まった下院議長
10月3日、マット・ゲーツ議員によるケビン・マッカーシー議長の解任動議が可決され、下院議長が空席となった。本来は議長を支えるべき共和党から、保守強硬派の8名が賛成に回ったからだ。下院では共和党が221議席で117議席の過半数を上回るものの、同党の5名が造反すれば、議長の選出はできない状態にある(図表1)。
共和党下院議員による候補者指名投票により、主流派のティーブ・スカリス院内総務、保守強硬派のジム・ジョーダン司法委員長、そして主流派のトム・エマー院内幹事が選出されたものの、本会議で217票の過半数を獲得するメドが立たなかった。ジョーダン氏のみ投票が3回行われたが、いずれも20名を超える共和党議員が反対、結局、指名取り消しに追い込まれたのである。
25日、4人目の候補となったマイク・ジョンソン下院共和党副議長は、出席した共和党議員全員の票を得て、3週間ぶりに新たな議長に就任した(図表2)。もっとも、その前途は多難ではないか。
ジョンソン氏は保守強硬派の議員連盟であるフリーダム・コーカスのメンバーではないが、ドナルド・トランプ前大統領に近い。ウクライナへの追加支援には反対の立場を示しており、2024年11月の大統領選挙へ向け、ジョー・バイデン政権とは厳しい対立が予想される。また、上院で過半数を握る民主党との調整は、共和党内保守派の圧力により極めて難しいものとなるだろう。
■ 新議長には妥協が困難
下院共和党内における深刻な対立の背景には、来年11月の大統領選挙で返り咲きを目指すドナルド・トランプ前大統領の存在が大きいだろう。同前大統領は、ウクライナへの軍事支援に強く反対し、つなぎ予算に関するバイデン政権との妥協に関してマッカーシー前議長を厳しく批判した。
現段階において、トランプ前大統領は共和党候補のなかで独走状態にある(図表3)。
大統領選挙と同時に下院議員は全435議席が改選になるため、共和党内に強い影響力を維持しているだろう。同前大統領によるSNSへの投稿で「悲劇的ミス」と厳しく批判されたエマー氏は、結局、数時間で指名辞退に追い込まれた。
11月17日には2024会計年度のつなぎ予算が期限切れとなる。マッカーシー前議長の解任は、政府機関の閉鎖を回避するため、民主党との協議により期限切れ寸前の9月30日、45日間のつなぎ予算を可決したことが背景だった。ジョンソン新議長にとって、民主党との新たな妥協点を見出す以上に、共和党内の支持を確保することがより難しいのではないか。それは、上院と下院のねじれ状況の下、予算が決まらず、政府機関の閉鎖が再び現実味を帯びることを意味する。
担保付翌日物調達金利(SOFR)の動きを見ると、年内の追加利上げの可能性は織り込まれていない(図表4)。
ジェローム・パウエル議長率いるFRBによる利上げ見送りのサインを反映しているだろう。パレスチナ情勢の不透明感に加え、米国の政治が不安定化するなかで、FRBが追加の利上げに踏み切る確率が高いとは思えない。
人手不足を背景に雇用の逼迫が簡単には緩和されない以上、米国経済が直ぐに腰折れすることはないと考えられる。ただし、米国政治の混迷は深刻だ。米国国債が格下げとなる可能性も含め、当面のリスク要因と言えるのではないか。
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