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- 円安の持続性
足下、円は反転局面を迎えた。日米の物価上昇率が同水準となるなか、日銀はマイナス金利の是正を目指し、FRBの利上げは既に終わったとの見方が強まっている。両国の実質金利差が縮小すれば、それは円高・ドル安要因だ。もっとも、中長期的な円安のリスクは大きい。財政政策と金融政策が相互依存から抜け出すのは難しく、過剰供給が円の価値を押し下げるのではないか。
■ 金融政策への思惑がもたらす円高
円安が加速したのは、昨年3月のFOMCでFRBが利上げを実施してから。日米の名目短期金利差が拡大、円を調達してドルで短期運用すれば、債券の価格変動リスクを負うことなく、十分な利鞘を得ることができる。海外ファンドによる円キャリートレードが、円を下落させた主要な要因と言えよう。
一方、長い期間で見ると、円/ドルは日米の実質短期金利差に連動する傾向を示してきた。エネルギーなど資源主導の国際的な物価上昇が一段落、日米間に消費者物価上昇率の差は概ね解消された(図表2)。これは、消費税率引き上げ期とリーマンショック期を除けば、過去30年間なかったことだ。結果として、当面は日米の名目短期金利差と実質短期金利差が概ね一致したことから、ファンダメンタルズから見た場合、日銀とFRBの金融政策が為替に大きく影響するだろう。
FRBの利上げ局面は既に終了したと見られ、今後は現在の水準をいつまで維持するかが焦点になりそうだ。一方、日銀は、金融政策修正の一環として、2024年1-3月期にもマイナス金利を解除する可能性が強まっている。
日米の中央銀行による政策が逆のベクトルを描く場合、両国の名目短期金利差が縮小するとの観測が強まり、円キャリートレードを解消する動きが加速すると想定されよう。現在の為替市場では、そうした流れを先取りする形で、円高方向に振れやすい状況になっているのではないか。
■過剰供給による通貨価値の下落
当面は円の反騰局面としても、長期的な円安のリスクは大きいと考えられる。日銀にとり、歴史的な金融緩和からの脱却は容易ではないからだ。
IMFによれば、日本の政府債務対GDP比率は255.2%であり、他のG7諸国を大きく上回っている。この財政による借金を支えて来たのは、明らかに金融政策だ。黒田東彦総裁の下、日銀が2013年4月4日から続けて来た量的・質的緩和により、政府は利払いコスト、そして国債の需給関係を懸念することなく、国債を発行することができた。それは、金利変動を通じて財政の膨張に歯止めを掛ける市場の機能を麻痺させたとも言える。結果として、日銀のバランスシートは大きく拡大、名目GDPに対して121.5%に達し、FRBの28.6%、ECBの50.8を遥かに上回る水準になった。
仮に日銀が本格的な出口戦略へと移行する場合でも、国債の発行量が減るわけではない。需給バランスから長期金利が上昇すれば、財政は利払い費の増加によりさらに苦しくなるだろう。利息を払うために赤字国債が発行されることになりそうだ。
また、日銀は国債を資産として保有する一方、負債である当座預金に積み上がった民間銀行の超過準備は548兆5,170億円、名目GDPの93%に達した。デフレ期待がインフレ期待に変化、民間銀行の融資が拡大した場合、信用創造機能が回復してマネーストックが急拡大する可能性は否定できない。それは通貨供給量の大幅な伸びを意味しており、通貨価値の下落、即ちインフレを招くことになるのではないか。
日本の消費者物価上昇率が恒常的に米国を上回るとすれば、購買力平価の概念から円は下落すると考えられる。2024年へ向け円高・ドル安となるシナリオは否定できない。しかしながら、それがかならずしも円の長期的な下落のトレンドが終わったことを意味するわけではないだろう。
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