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前大統領の有罪評決と大統領選挙
市川 眞一
2024/06/07

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概要

5月31日、ニューヨーク州地裁はストーミー・ダニエル氏への不正支出問題で、ドナルド・トランプ前大統領へ有罪の評決を下した。現段階でこの件による大統領選挙への影響は不透明だ。6月27日の候補者討論会が当面の山場になるだろう。全米50州とワシントンD.C.の計51選挙区において、45選挙区は既に大勢が見えている。ただし、残り6州の攻防は最後まで勝敗が読めそうにない。



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■ 決着を付けるのは選挙

大統領選挙に関する最新の世論調査を集計すると、バイデン大統領の支持者は39.0%、トランプ前大統領は40.4%、ロバート・ケネディ・ジュニアは9.0%となっている(図表1)。バイデン大統領とトランプ前大統領は依然として支持が拮抗した状態だ。そうしたなかで、ニューヨーク州地裁の刑事訴訟において、陪審員12名は一致して34件の容疑全てに関しトランプ前大統領を有罪とする評決を下した。

同前大統領は他に3件の刑事訴追を受けているが、このうち11月の大統領選挙以前に公判が開始される可能性があるのは、2021年1月6日の暴徒による連邦議会襲撃に関し、トランプ前大統領の関与を問われた事案に他ならない(図表2)。トランプ前大統領の弁護団は、在任中の行為に関する免責を主張しており、連邦最高裁が7月上旬までに判断を示す見込みとなっている。



もっとも、こうした刑事裁判が、トランプ大統領の支持層に与える影響は不透明だ。迎え撃つ立場のジョー・バイデン大統領も、5月30日、Xへの投稿において、前大統領の刑事裁判ではなく、選挙で決着を付ける姿勢を示した。これは、政権による「政治裁判」との批判を躱す意図もあるだろう。


■ 注目される第1回候補者討論

米国の大統領選挙は、50州とワシントンD.C.に割り当てられた総計538名の選挙人を奪い合う仕組みだ。メーン、ネブラスカ両州を除けば、当該州でトップの候補者がその州の選挙人を総獲りし、当選には270名以上の選挙人を得る必要がある。

これまでの世論調査により各州を色分けすると、バイデン大統領が優位にあるのは19州、選挙人は合計で226名だ(図表3)。一方、トランプ前大統領がリードするのは25州、選挙人は235名である。いずれも過半数には達していない。この構図が変わらないとすれば、選挙を決するのはミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシン、アリゾナ、ネバダ、ジョージアの6州になるだろう。

激戦州で実施された最新の世論調査を見ると、今のところいずれもトランプ前大統領の支持率が上回っている(図表4)。ただし、当然ながら接戦であって、先行きは極めて不透明だ。過去の大統領選挙では、候補者討論会が有権者の投票に大きく影響した例もあったからである。

例えば、6月27日にCNNの主催で開催される候補者討論では、モデレーターがダニエルズ氏との関係について、トランプ前大統領に厳しい質問を試みる可能性が強い。不倫関係を認めていない同前大統領の回答は、有権者の関心が極めて高いと想定される。バイデン大統領に対しては、不法移民に関する質問が鍵になりそうだ。

いずれにしても、この大統領選挙の帰趨は現段階ではまだ全く分からない。両有力候補とも抜け出すための決め手に欠ける上、トランプ前大統領の刑事訴訟の行方、候補者討論会の攻防など、有権者心理を大きく変える可能性のあるイベントが続くからだ。次の重要なイベントとしては、大統領の免責特権に関する連邦最高裁の判断、そして6月27日にアトランタにて行われる1回目の候補者討論に注目すべきだろう。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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