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少子化対策としての資産所得
市川 眞一
2024/06/14

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概要

2023年の合計特特殊出生率は過去最低の1.20だった。また、直近10年間における全要素生産性(TFP)の伸び率は年平均0.4%に止まる。これは、公的年金の財政にとって極めて厳しい数字だ。岸田政権は『子ども・子育て支援関連法改正案』を成立させ、少子化対策に注力している。しかしながら、少子化を止めるのは容易ではない。個人ベースでの最大の対策は資産運用だろう。



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■ 公的年金:2つの前提を維持できず

6月5日、厚労省が発表した『人口動態統計概況』によれば、昨年の出生数は72万7,277名、合計特殊出生率は1.20であり、いずれも過去最低を更新した。昨年4月に国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)が示した最新の将来人口推計では、2023年の合計特殊出生率について、中位推計で1.37としていた(図表1)。また、2019年度の年金財政検証の前提とされた2017年版だと、中位推計で1.66、低位推計で1.21だ。新型コロナ禍の影響もあり、日本の人口は想定以上のペースで減少しつつある。

一方、2012年12月に発足した第2次安倍政権は、全要素生産性(TFP)の改善をマクロ政策の柱の1つとした。しかしながら、2013年以降の10年間、TFPの伸びは年平均0.4%に止まっている(図表2)。過去5年間だと横ばいだ。



2019年度の公的年金財政検証によると、2004年度に実施された年金制度改革の目標である現役世代の所得代替率50%を維持するには、1)2017年の将来人口推計における中位推計を維持すること、2)TFPの伸びが年率平均0.9%以上であること・・・の2つが最も重要な要件とされた。


出生率やTFPの伸びが年金給付に与える影響は長期的なものであり、直ぐに問題が表面化するわけではない。ただし、「100年安心」として設計されたはずの公的年金の前提が、20年を経過した時点で崩れつつあると考えるべきではないか。

■ 公助の脆弱性は自助で補強

今年度は5年に1度の公的年金財政検証の年である。それに先立ち、昨年4月に発表された最新の将来人口推計を見ると、30年後の2054年における総人口に関し、2017年推計より減少幅が233万人縮小していた。出生率の低下に伴って、日本人の減少幅は71万人拡大したものの、在留外国人が154万人増から458万人増へと大きく上昇修正された結果だ(図表3)。

日本人の人口は、現在の人口構成と合計特殊出生率から半ば自動的に計算されるため、大きく数字を操作することは難しい。しかしながら、在留外国人であれば、推計値の前提はかなり曖昧になる。年金財政検証を控え、将来人口推計において日本人の減少を在留外国人の増加で埋め合わせ、在留外国人の年金加入を厳格化する・・・これが年金財政検証において、「100年安心」の綻びを見せない政府のトリックと言えるだろう。

もっとも、在留外国人が期待通りに増加する保障はどこにもない。むしろ、外貨ベースで見た低賃金、さらに年功序列の色濃い日本が敬遠される可能性は強く、2022年時点で292万人の在留外国人が、30年強で3倍増するシナリオは実現可能性に強い疑問が残る。それは、TFPの低い伸びと合わせ、将来の年金給付に関する不透明感だ。受給開始年齢の引き上げや保険料の見直しなどが、早晩、議論されることになるのではないか。

いずれにせよ、日本人のベースだと、足下、65歳以上の高齢者1人に対し生産人口は2.01人だが、2054年には1.41人になる見込みだ(図表4)。岸田政権は少子化対策に注力するものの、主要先進国の多くで出生率は構造的に低下しつつある。

個人ベースで実践可能な少子化対策は、投資による将来の資産所得確保に他ならない。NISAに続き、iDeCoも拡充される見込みとなった。公助の脆弱性は、自助で補強せざるを得ないだろう。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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