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- フランス総選挙 極右優勢で金融市場は警戒ムード
6月の欧州議会選挙で極右政党が大幅に議席を伸ばしたことから、マクロン仏大統領は下院議会の総選挙を突如発表した。金融市場では極右政権誕生の可能性が警戒され、仏10年国債利回りのスプレッド(対独10年国債利回り)が上昇したほか、仏CAC40指数も急落する展開となった。
「危険な賭け」に出たマクロン仏大統領
今月6日から9日にかけて行われた欧州議会選挙で極右政党が大幅に議席を伸ばす見通しとなったことを受け、フランスのマクロン大統領はフランスの下院議会(国民議会)を解散し、今月末に総選挙を行うことを突如発表した。フランスではマクロン大統領率いる与党連合が極右政党の「国民連合」に対して大敗したことから、国政選挙で挽回し、極右政党の台頭を阻止する狙いがあったと見られる。
しかし、その後はフランスの社会党、欧州エコロジー・緑の党、共産党、急進左派「不服従のフランス」の4党が左派連合を結成したことで、マクロン大統領の目論見が崩れ始める。17日に発表されたフランス国民議会の第1回投票における最新世論調査(Ifop)によれば、極右政党「国民連合」は33%、左派連合は28%となっており、与党「再生(RE)」の18%を大きく引き離す。このまま世論調査の結果が現実となれば、与党は6月30日の第1回投票で敗北し、7月7日の第2回(決選)投票に進むことすらできないシナリオも浮上する。ブリュノ・ルメール仏経済・財務相は、総選挙で左派連合が勝利すればフランスは欧州連合(EU)から離脱することになるだろうと警告を発するが、その発言からは与党陣営の焦りも同時に垣間見ることができる。
極右政権誕生で警戒されるシナリオは?
仏総選挙で極右政権が発足すると、ポピュリズムに基づく財政拡張政策が採用され、政府債務残高が一層膨らむことが懸念されている。元々、IMF(国際通貨基金)はフランスの政府債務がGDP比で増加すると予測していたが、極右政党や左派連合の台頭により、この政府債務の悪化傾向がさらに加速するシナリオが金融市場で警戒されている(図表1)。
実際、債券市場ではドイツの10年物国債利回りに対するフランスの10年物国債利回りのスプレッドが、6月18日時点で0.77%まで上昇し、2017年(フランス大統領選挙前に極右政党のマリーヌ・ルペン候補が高い支持を集めていた時期)以来の高水準に達した(図表2)。
また、株式市場でもフランスの主要な株価指数であるCAC40指数が月初来で大きく値下がりし、リスクオフ(フランス株への投資ポジションを削減する動き)の傾向が強まった(図表3)。
そのCAC40指数における月初来の業種別株価騰落率を見ると、銀行や建設・土木セクターなどの株価が大きく値下がりしていることが分かる(図表4)。
銀行セクターはフランスの10年国債利回りが上昇(国債価格は下落)したことで銀行が保有する国債の含み損が拡大したとの見方が強まったほか、銀行にとっての資金調達コストが上昇したことも嫌気された格好だ。建設・土木セクターでは、極右政権が誕生した場合、高速道路が国有化され、高速道路料金が引き下げられるリスクなどが材料視された。
英国のEU離脱を巡る「国民投票」のデジャブー
今回のフランス総選挙を、2016年6月23日に行われた英国のEU離脱を巡る国民投票と比較する見方もある。フランス総選挙ではEU離脱が争点にはなっていないものの、右派の脅威を国民投票で払拭しようとしたデヴィッド・キャメロン元英首相の「危険な賭け」と共通する点も見いだせる。英国はこの「危険な賭け」に負けた代償として、EU離脱後3年間で年1000億ポンド(約20兆円)の損失が発生したとブルームバーグ・エコノミクスは分析する。
マクロン仏大統領が「危険な賭け」に負けて極右政権が誕生した場合、EU離脱には至らないまでも、EU全体の弱体化につながるリスクは存在する。このような政治的変化はEUの結束力低下を招き、ウクライナ支援から気候変動対策に至るまで、多岐にわたる分野に及ぶことが懸念される。
しかし、この「危険な賭け」に負けたとしても、その影響が限定的になる可能性もある。2022年9月25日に行われたイタリアの総選挙では、ジョルジャ・メローニ党首率いる極右政党「イタリアの同胞(FDI)」が第1党となり、メローニ氏が首相に就任した。イタリア株式市場は当初、極右政権の誕生を嫌気して軟調に推移したが、メローニ政権の堅実な政策運営が市場に評価されるにつれて、株価は回復基調に転じた(図表5)。
フランスの政治リスクが高まる中、投資家は当初リスクオフの姿勢で反応した。しかし、その後はマリーヌ・ルペン氏が総選挙での勝利後もマクロン大統領を追い出す意図がないと述べたことなどが報道された結果、17~18日のフランス株式市場はやや落ち着きを取り戻す展開となった。
だが、政治の展開は予測不可能な要素が多いため、実際に結果が出るまで「決め打ち」はできない。6月30日の第1回投票および7月7日の決選投票の結果と、その後の政策運営が明らかになるまで、投資家は当面身動きが取れない状況が続くだろう。市場はフランス総選挙の行く末を固唾を呑んで見守ることになる。
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