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まだ分からない 米国大統領選挙
市川 眞一
2024/07/12

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概要

米国大統領選挙は、6月27日の第1回候補者討論会でジョー・バイデン大統領のパフォーマンスが悪く、最新の世論調査ではドナルド・トランプ前大統領のリードが拡がっている。民主党内では候補者の交代論も強まっており、11月5日の本選まであと4ヶ月を切った段階で不透明感が強まった。トランプ前大統領も盤石な状況とは言えないだけに、結果を予測するのは極めて難しい状況だ。



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■ 経済の実績への自信

独立記念日の7月4日、ウィスコンシン州ミルウォーキーのラジオ番組に出演したバイデン大統領は、候補者討論会について、「私は大失敗をした。それが90分間の舞台だった。でも、3年半に何をしたかを見て欲しい」と語り、選挙戦に止まる強い意欲を示した。同大統領が強調したこれまでの実績には、経済も念頭にあったと見られる。

バイデン大統領が就任した2021年、新型コロナ禍で落ち込んだ前年の反動で、米国の実質成長率は5.8%と1984年以来の高さだった(図表1)。2年目以降も景気は好調に推移、OECDは2024年の成長率を2.6%としている。その場合、1年目を除く1期目3年間の成長率は年平均2.4%になり、失業率が低水準で推移していることから、少なくとも数字上、バイデン政権の実績は悪くない。



戦後、再選を目指した大統領は11名だが、再選された7名の大統領は、1期目の中間選挙後の2年間は何れもプラス成長で終えていた(図表2)。他方、再選に失敗した4大統領は、1期目の後半2年間において何れかの年がマイナス成長だ。つまり、再選を賭した大統領選挙前の景気が、2期目へのチケットを得られるか否かの鍵を握っていると言っても過言ではない。


バイデン大統領の場合、対象期間となる昨年は2.5%、今年も2%台の成長が見込まれている。同大統領が戦う姿勢を崩さないのは、経済に関する政権の実績に自信があることが一因だろう。

■ 投資判断の材料とするには時期尚早

経済は好調に推移しているものの、世論調査はバイデン大統領の厳しい状況を示している。ABC系のニュースサイトであるファイブサーティエイトの集計によれば、候補者討論会後、トランプ前大統領との支持率の差が2%ポイント以上に拡大した(図表3)。また、激戦区とされるアリゾナ、ミシガンなど6州において、バイデン大統領はいずれもトランプ前大統領の後塵を拝する状況だ(図表4)。

そうしたなか、バイデン大統領を強力に支持してきた俳優のジョージ・クルーニー氏が、7月10日付けのニューヨークタイムズへ寄稿、同大統領に選挙からの撤退を求めた。また、前下院議長で民主党の重鎮であるナンシー・ペロシ下院議員は、MSNBCの『モーニング・ジョー』によるインタビューで、大統領自身の意志を尊重しつつ、「私たちは皆、彼に決断を促している。時間が迫っているからだ」と指摘している。これは、微妙な表現ながら、実質的な撤退勧告と解することも可能だろう。

民主党が正式に候補者を指名するのは8月19日から22日にシカゴで開催される同党の全国大会だ。それまでにバイデン大統領が自ら候補者指名を辞退すれば、同党は新たな正副大統領候補者を選ぶことになる。ペロシ前議長が指摘する通り、時間的に余裕があるわけではいが、バイデン大統領が自ら撤退を選択する可能性は否定できない。

他方、第1回討論会で優位に立ったかに見えるトランプ前大統領も、勝利へ向け盤石の態勢にあるとは言いえないだろう。例えば、不正支出問題に関し、ニューヨーク州地裁が9月18日に量刑を宣告する。その内容が、無党派層の判断に大きな影響を与えることも考えらえるからだ。

民主党の候補者が交代する可能性を含め、今回の大統領選挙には不確定要因が多い。現段階で選挙の帰趨が読めなだけに、この選挙を投資判断の材料とすることは時期尚早なのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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