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米国大統領選挙の行方 
市川 眞一
2024/08/30

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概要

ジョー・バイデン大統領の撤退で超短期決戦になった米国大統領選挙だが、今のところカマラ・ハリス副大統領に勢いがある。ドナルド・トランプ前大統領がそれにストップを掛けるには、9月10日に予定される候補者討論が鍵を握るだろう。政策面を見ると、ハリス陣営はリベラル色を強めている、一方、トランプ陣営は保守的姿勢に軸足を置きつつ、インフレを加速させかねない政策が目立つ。



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■ 重要となる9月10日の討論会

民主党大会が終わり、米国大統領選挙は早くも終盤戦を迎えている(図表1)。民主党大会は、バイデン大統領の他、ビル・クリントン、バラク・オバマ両元大統領、ヒラリー・クリントン元国務長官など大物が勢揃いし、挙党体制を強くアピールした。一方、先に行われた共和党大会は、ジョージ・ブッシュ元大統領やディック・チェイニー元副大統領など重鎮が姿を見せず、「トランプ党」の印象が際立つイベントだったのではないか。

ABC系のニュースサイトであるファイブサーティエイトの集計では、足下、ハリス副大統領の支持率は全米で47.0%であり、トランプ前大統領の43.7%を3.3%ポイント上回っている(図表2)。共和党大会の終了後におけるバイデン大統領の撤退表明は、結果的に絶妙のタイミングだったと言えるだろう。民主党が3日間程度でハリス副大統領に一本化したことにより、短期決戦で最も重要な勢いを味方につけたのではないか。



また、激戦州と言われる7州のうち、アリゾナ、ネバダ、ミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシンの5州で僅差ながらハリス副大統領がリードしている(図表3)。既に43州及びワシントンD.C.は概ねいずれかの陣営が大きく先行しており、当該44選挙区で両陣営が230名前後の選挙人を分け合う状況だ。つまり、獲得選挙人が過半数の270名を超えるためには、この7州のうち少なくとも3、4州で勝つことが必須と言える。従って、今のところ、ハリス副大統領が優位と言えるだろう。ただし、支持率の差は大きなものではない。トランプ前大統領が巻き返す上で、鍵を握るのは9月10日に予定されるABC主催の候補者討論と想定される。同前大統領はトゥルース・ソーシャルへの投稿で不参加を示唆したが、それは不戦敗と言え、同前大統領自身の致命的な打撃になりかねない。他方、これまで正式な記者会見を行っていないハリス副大統領にとって、この討論での対応力は、米国の有権者が大統領に相応しい政治家と認めるか否かの重要な判断材料になるだろう。


■ 両党の政策は実現性に課題

民主党、共和党がそれぞれ公表した政策綱領を見ると、民主党は中低所得者、子育て支援の減税や補助金を強化する一方、処方箋薬の薬価引き下げを強く主張している(図表4)。財源としては、法人税率を現行の21%から28%へ引き上げる案を示すなど、リベラル色を強めた印象だ。争点である移民については、合法的な移民受け入れを強化することで、暗に不法入国者への厳しい対応を示唆している。また、バイデン政権の姿勢を継続し、巨大IT企業の独占禁止に一段と注力するのではないか。「ハリス大統領領」の場合、課題は財政赤字拡大の圧力だろう。

一方、共和党の政策綱領は、企業減税や規制緩和など小さな政府を指向しており、経済政策面では保守の伝統を踏襲したものとなった。もっとも、基礎的関税の導入は、輸入品価格の急上昇を通じて物価を大きく押し上げかねない。また、トランプ前大統領は、FRBの金融政策に大統領が容喙する可能性を示唆した。これらの政策は、共和党が訴えるインフレの抑制と逆行するものである可能性が強く、政策の整合性が問われるのではないか。実現のハードルはかなり高いだろう。

 

 

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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