Article Title
解散・総選挙とマーケット
市川 眞一
2024/10/04

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

10月1日、石破茂内閣が発足した。石破新首相は10月9日に衆議院を解散、27日が総選挙の投開票日となる(図表1)。同首相にとり、政権を安定させるには、自民党が240~250議席を確保する必要があるだろう。過去の総選挙では、郵政民営化の是非が問われた2005年、自民党が政権を奪還した2012年、株価が大幅に上昇した。もっとも、今回は大きな影響はないと想定される。



Article Body Text

■ 政権安定には総選挙の勝利が必須

石破首相は、自民党総裁選において、与野党の争点を明確化する上で、解散前に衆参両院の「予算委員会を開くべき」(9月14日:候補者討論会)と述べてきた。しかし、総裁に就任して早々、早期解散を決めた背景には、11月5日の米国大統領選挙があるのではないか。この結果が日本の政治に与えるインパクトは読み難いからだ。ただし、公約を翻したことが、有権者の判断にどのような影響を及ぼすかも不透明だ。

岸田文雄前首相の下で行われた2021年10月の総選挙で、自民党は定数465議席の56.1%に相当する261議席を得た(図表2)。安倍晋三元総裁が率いた2012年12月、2014年12月、2017年10月の総選挙において、同党は何れも60%を超える議席を獲得している。岸田前首相はその水準には達しなかったものの、単独過半数の233議席を超えた上、全常任委員会の委員長ポストを独占した上で、全常任委員会で過半数を超える絶対安定多数を維持した(図表3)。この総選挙の結果は、滑り出し直後の岸田政権を安定に導いたと言えるだろう。



自民党の現有議席は255である。政権を維持する最低条件は連立を組む公明党との合計で233議席以上だが、自民党が単独過半数を割れば、石破首相の政権運営は難しいものとなりそうだ。来年7月には参議院選挙が予定されており、「選挙に勝てるトップ」としてのリーダーシップに傷が付きかねないからである。逆に言えば、石破政権が安定するには、この総選挙で240~50議席程度を得ることが条件になると想定される。


■ 市場への影響は大きくない

過去10回の総選挙前後の日経平均の動きを見ると、解散の日を基準とした場合、その1ヶ月前からの騰落は上昇5回、下落5回だった(図表4)。一方、投票日1ヶ月後と比べると、同じく上昇5回、下落5回である。解散から投票日1ヶ月後までに最も上昇率が大きかったのは、自民党が政権を奪還した2012年12月の総選挙であり、17.5%の値上がりだった。また、2005年8月の小泉純一郎首相(当時)による郵政解散の際も、自民党の圧勝を受け日経平均は15.1%上昇している。

もっとも、1993年6月(宮沢喜一内閣)、2009年7月(麻生太郎首相)の解散は、いずれも自民党が大敗して下野を余儀なくされた。しかし、解散の日から投票日1ヶ月後まで日経平均は5%近く上昇している。また、小泉首相の2003年10月、安倍首相の2014年11月の解散は、自民党の勝利と言える結果だにも関わらず、投票日の1ヶ月後に日経平均は下落していた。

郵政民営化や第2次安倍政権誕生は、日本経済の大きな変化を期待させたイベントである。それ故、株価は大きく反応したのだろう。そうした歴史的な転換点でない限り、市場は解散・総選挙より経済のファンダメンタルズに従うと考えられる。

石破首相は、外交・安全保障面では、自衛隊の米国駐留、日米地位協定の見直し、アジア版NATO構想などかなり際立った政策を主張している。一方、経済・金融政策は、岸田政権の遺産を引き継ぐ意向を示しており、資産所得倍増プランにも変更はないだろう。つまり、今回の解散・総選挙は、歴史的な転換を感じさせるものとは言えそうにない。従って、政権交代など極端な結果でなければ、マーケットへの影響は限定的と考えるべきではないか。中東情勢は懸念されるものの、国内政治による市場の動揺は徐々に落ち着くだろう。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米国の利下げと為替相場

変化が加速する家計の資産運用

FRBの利下げ いつまで?どこまで?

米国経済 減速だが失速はない理由

人件費が示す生産性改善の予兆