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半導体中心の相場は終わったのか?
市川 眞一
2024/10/25

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概要

オランダの半導体製造装置大手、ASMLの2024年7-9月期決算を機に、世界の株式市場では半導体関連株への警戒感が広がった。中国の景気減速、同国半導体企業の駆け込み需要の反動を受け、汎用品、製造装置はしばらく停滞が続く可能性がある。一方、人工知能(AI)のインフラとなるデータセンター関連などの需要は引き続き旺盛で、当面、半導体は二極化するのではないか。



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■ 受注減速の要因は中国

10月15日に発表されたASMLの7-9月決算が、世界の株式市場に大きく影響した。同社は最先端の微細加工技術により半導体を量産する上で欠かせないEUV(極端紫外線光)露光装置を世界で唯一供給しており、半導体関連産業において最も成功している企業の一つだ。


決算の結果を見ると、売上高は前年同期比11.9%増、純利益は同9.7%増で3四半期ぶりの増収増益で、足下の数字が悪かったわけではない(図表1)。問題は受注額だ26億3,300万ユーロであり、4-6月期に比べ52.7%の落ち込みとなった。昨年以降、受注は不安定化していたが、今回は市場想定の5割程度だったことから、半導体市況全般の先行きに対して、株式市場に懸念が台頭したと言えるだろう。


要因は中国に他ならない。SEMIによれば、今年1-6月、半導体製造装置の世界販売額における中国のシェアは46.5%に達した(図表2)。二番目の韓国は18.3%、台湾11.7%、北米8.1%なので、中国は圧倒的な市場規模を誇る。


その中国に対し、2022年10月、経済安全保障上の観点から、米国は最先端の半導体製造装置に関して厳しい輸出規制を課した。米国産の部品などに関する再輸出、米国発の技術を活用した製品が対象になり、オランダ、日本の製造装置メーカーは輸出に際して米国商務省から許可を得る必要が生じたのだ。

一方、中国の半導体メーカーは米国の規制がさらに強化される可能性を意識したと見られ、2023年10-12月期における同国向けの製造装置輸販売額は前年同期比90.7%増、2024年1-3月期も同113.3%増の極めて高い伸びとなった(図表3)。ただし、4-6月期は同61.7%増であり、駆け込み需要が一巡しつつある可能性を示唆している。さらに、中国の景気減速も影響し、ASMLの7-9月期における受注が大きく減少したのではないか。

■ 中長期的には新陳代謝が続く

10月17日に発表されたTSMCの7-9月期決算は、売上高、利益とも過去最高を更新した。同社は世界最先端の微細加工技術を持つファウンドリーだ。設計専業であるNVIDIAも生産は同社へ委託せざるを得ない。ライバル企業がいない以上、価格競争に巻き込まれない強さがある。

日本政府が支援するラピダスが、最先端レベルである回線幅3nm、もしくは2nmのデモ用チップを製造することは可能かもしれない。ただし、本当の課題は安定的な量産体制の確立だ、この点において、現在、TSMCを凌駕する企業は存在しない。

AIの本格的な普及・活用はこれからであり、データセンター向けの画像処理プロセッサー(GPU)など、AI関連の半導体は高成長を維持すると見られる。一方、それ以外の汎用品については、当面、厳しい価格競争が続きそうだ。クアルコムがインテルへ買収を打診したと報じられたが、国際的に大型の業界再編があっても不思議ではない。また、中国企業による駆け込み発注が一巡した製造装置についても、しばらくはその反動から需要が停滞する可能性が強まった。

ただし、世界的にデジタル化はさらに加速すると見られる。半導体はその中核のテクノロジーであることに変化があったわけではない。長期的に見れば、この分野は技術革新と業界再編、新たな強者の台頭による新陳代謝が続くと想定される。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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