- Article Title
- 大型経済対策は役に立つのか?
石破内閣は、11月22日、『国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策』(以下「総合経済対策)を閣議決定した。総事業規模39兆円、2024年度補正予算は13兆9千億円に達する。もっとも、こうした大型対策は、政府債務の増加により国債市況を不安定化させ、日銀の出口戦略の難易度を上げることになりかねない。また、円安の要因として逆効果になる可能性もある。
■ G7で最も高い政府純債務対GDP比率
今年度当初予算の一般会計は112兆5,717億円であり、これに補正を加えると126兆5千億円程度になる(図表1)。昨年度が当初と補正の合計で127兆5,804億円なので、若干の縮減に見えるかもしれない。もっとも、昨年度は将来へ向けての防衛費増額の財源を確保するため「防衛力強化資金」が新設され、特別会計からの繰り入れなどで3兆3,806億円が充てられた。これを除けば、2023年度の一般会計は124兆1,998億円なので、今年度の歳出は実質的に増額だ。
財政法は、第29条1項において、予算の追加を伴う補正予算は、「予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費」との条件を設けている。しかしながら、これで補正予算の編成は17年連続になり、新型コロナ禍後も大型化している。歳出項目の多くも「緊要」とは言い難く、事実上、当初予算と一体化したと言えるだろう。
IMFによれば、日本の政府純債務は2008年度に名目GDPを上回り、2024年度は951兆685億円と推計されている(図表2)。対名目GDP比率では153.9%になった(図表3)。G7で日本に次ぐのはイタリアの128.7%であり、以下、フランス107.1%、米国101.7%、英国92.4%と続く。
このところ、米国の国家債務の急増が市場で話題になっているが、フローベースの経済規模との対比で日本はその1.5倍に他ならない。それでも、国債市況が安定を維持してきたのは、日本がデフレだったからではないか。
■ 懸念される財政拡大の副作用
デフレの下、日銀は半ば無制限に長期国債を購入することが可能だった。マネタリーベースを大量に供給しても、日銀当座預金勘定に銀行による超過準備として積み上がり、皮肉にも経済に対する実質的な影響が大きくなかったからである。
量的・質的緩和が採用される直前の2013年3月末、日銀の保有する国債・財投債は93兆8,679億円だった。それが、今年6月末には564兆8,033億円へ470兆9,354億円増加している(図表4)。この間、国債・財投債の残高増加額は277兆1,813億円だ。結果として、国債・財投債の発行残高に占める日銀保有分のウェートは、2013年3月末の13.5%から、今年6月末には58.0%へ上昇している。デフレ下で日銀がバランスシートを無限に拡張できたからこそ、一般政府の債務は順調に消化されてきたのだろう。
ちなみに、1991年12月の旧ソ連崩壊以降、米国主導の下、世界ではグローバリゼーション、即ちサプライチェーンの統合が進んだ。その過程において、中国、ASEAN諸国、メキシコなどが工業化、先進国に大量の製品を供給したことにより、主要国は約30年間に亘り物価の安定を維持してきた。
一方、現在の世界は分断に向かっている。米国第一主義を隠さないドナルド・トランプ次期大統領は、その象徴的な存在と言えそうだ。
分断の時代には、ヒト・モノ・カネの自由な移動が妨げられてコストが上昇し、構造的なインフレとなり易い。そうしたなか、トランプ次期大統領が公約通り『基礎的関税』を導入すれば、米国の物価上昇圧力はかなり強まることが想定される。
いつまでもデフレ感覚で財政出動に依存した場合、日本では経済の構造改革が遅れ、国債市況の不安定化、円安による悪性インフレを招きかねない。少なくとも、意図せざる長期金利の上昇が続くと想定すべきではないか。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。