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企業倒産件数が示す変化
市川 眞一
2024/12/13

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概要

企業倒産件数が漸増傾向にある。新型コロナ禍の下で実施された官民の「ゼロゼロ融資」が利払い及び元本の返済期に入ったことが背景ではないか。倒産の増加は経済にとってマイナスのイメージと言える。しかし、日本の場合、不採算な過剰供力の整理の遅れが、国際競争力低下の要因である可能性は否定できない。産業の新陳代謝が進むとすれば、マクロ経済には前向きの変化だろう。



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■ 社会の安定もたらす「ゼロゼロ融資」

東京商工リサーチのデータによれば、負債総額1千万円以上の倒産件数は、10月までの12ヶ月間の月平均で828件だった(図表1)。これは、2014年9月以来、10年ぶりの高水準だ。


直近で倒産件数の平均が最少だったのは、2022年3月の498件である。新型コロナ期はむしろ倒産件数が減少傾向だった。売上高が急減した企業が大きく増加したにも関わらず、倒産件数が減った背景は、いわゆる「ゼロゼロ融資」だろう。


ゼロゼロ融資は、実質的に無利息、無担保で融資する制度で、新型コロナの感染第1波が押し寄せた2020年3月、日本政策金融公庫(日本公庫)、商工組合中央金庫(商工中金)など政府系金融機関が開始した。さらに、2020年5月から、信用保証協会による保証を付けた民間金融機関によるゼロゼロ融資も始まったのである。


2020年度、信用保証協会による保証承諾件数は、前年度比189.9%増加し、23兆4千億円の融資が実施された。結果として、2019年度末に20兆8千億円だった保証債務残高は、2020年度末に42兆円へと増加している(図表2)。

政府系金融機関、民間を合計すると、ゼロゼロ融資は約42兆2千億円に達したのではないか。従業員に対する休業補償を行った雇用調整助成金と共に、ゼロゼロ融資が新型コロナ禍における事業者の破綻、従業員の解雇を抑制し、社会の安定に寄与したことは間違いない。

■ 倒産増加は前向きな変化の兆候!?

2023年7月頃より、ゼロゼロ融資の利払いが始まった。また、信用保証協会が保証した民間金融機関の融資については、元本の据え置き期間が順次終了したと見られる。結果として、リーマンショック期以降、減少傾向にあった信用保証協会の代位弁済は、2021年度を底に件数、金額とも増加に転じた(図表3)。

2022年12月23日、総合経済対策の一環として、経産省は「新型コロナウイルス感染症の影響の下で債務が増大した中小企業者の収益力改善等を支援するため」、『民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための補償制度(コロナ借換保証)』の開始を発表した。これで信用保証協会の保証を活用した個人事業主、企業は、取り敢えず一息つけることになったのではないか。

しかしながら、こうした公的金融機関による融資、信用保証協会の保証は、結局、産業の新陳代謝を遅らせることになりかねない。OCED主要国の場合、開業率と廃業率の間には正の相関関係が認められた(図表4)。つまり、生産性が低く、競争力の低下した企業が淘汰され、ヒト、モノ、カネが成長企業や新興企業にシフトするからこそ、経済のダイナミズムが生まれると考えられる。

日本の場合、新型コロナ以前から厳しい経営状態にあった企業が、ゼロゼロ融資により辛うじて破綻を免れても、必ずしも先に展望があるわけではないだろう。結局、そうした借り手は債務の残高が膨れ上がり、利息や元本の支払いが始まると、より深刻な状態に陥るケースが少なくないようだ。

むしろ、不採算企業、低収益事業の廃業や譲渡は、従業員の方へリスクリングを前提とすれば、産業・企業の新陳代謝に資する。企業倒産件数の増加は、必ずしも悪いニュースではなく、産業・企業の新陳代謝へ向け、日本経済が前向きな変化をしつつある兆候と見て良いだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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