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USスチール買収審査は分断の象徴か!?
市川 眞一
2024/12/20

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概要

日本製鉄のUSスチール買収提案に関し、近く対米外国投資委員会(CFIUS)が審査結果を公表する。ドナルド・トランプ次期大統領は阻止の意向を明確にし、ジョー・バイデン大統領も反対の方針と報じられた。仮に差し止めとなれば、CFIUSが同盟国企業からの買収提案を阻止する初のケースになる。それは、米国が一段と保護主義に傾き、国際社会の分断が進んだことを示すだろう。



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■ 本来は歓迎されるべき買収提案

日本製鉄によるUSスチールの買収に関し、CFIUSの審査期限が23日に迫っている。バイデン政権の判断を前に、12月3日、トランプ次期大統領はトゥルースソーシャルへ投稿、この買収を阻止する意向を改めて強調した。また、12月11日にはブルームバーグが、「バイデン大統領が日本製鉄による買収を阻止する準備に入り、USスチール株が下落」との記事で、現大統領も単なる反対ではなく買収を阻止する意向だと報じている。


USスチールの売上高を見ると、新型コロナ禍から米国経済が正常化する過程で回復はした(図表1)。もっとも、それは原料やエネルギー、人件費の高騰が主な要因と見られ、鉄鋼生産量が顕著に伸びているわけではない。従業員数は、リーマンショック以降、長期減少傾向を続けている。


米国地質研究所によれば、終戦の年である1945年、世界の粗鋼生産の71.4%を米国が占めていた。その後、欧州、アジアが目覚ましく復興し、鉄の生産量も拡大したが、1960年代に米国のシェアが20%を割ることはなかった(図表2)。なかでも世界最大のUSスチールは、1953年に粗鋼3,500トンを生産し、世界シェアは14.9%、従業員数は34万人に達していた。


71年を経て、今や米国の世界シェアは4.2%に過ぎない。鉄鋼業の従事者は7万8千人になり、USスチールの従業員も2万1千人へと減少した。ただし、それは米国の産業構造が重厚長大型からより生産性の高いIT中心へ転換したことを示すだろう。マクロ的な視点では、前向きに評価される現象だ。経済合理性の観点から見た場合、日本製鉄による買収でUSスチールが立ち直るのであれば、本来、それは歓迎すべきことではないか。

■ 同盟国企業への拒絶なら初のケース

世界鉄鋼協会によると、2023年における粗鋼生産シェアトップは中国の宝鋼集団であり、同国が世界シェアの54.0%を握っている(図表3)。ただし、その中国も投資主導の高度経済成長が曲がり角に至ったことで、製鉄は過剰供給状態だ。大型再編の可能性は否定できない。

さらに、高炉による製鉄は電炉に比べ同量の鉄を生産するのに5~6倍の二酸化炭素を排出する。カーボンプライシングの下、生き残りを図るには、巨額の投資により電炉では難しい高度な製品に特化する必要があるだろう。USスチールが単独で実行するのはハードルが高いと見られる。

それにも関わらず、米国の新旧大統領が日本製鉄の買収提案を拒絶するのは、専ら政治的な理由によるのではないか。特に米国で最大の労組である全米鉄鋼労働組合(USW)が強硬に反対しており、その意向を無視はできないのだろう。

また、バイデン大統領は1942年、トランプ次期大統領は1946年の生まれだ。青少年期に重厚長大産業が米国経済を牽引しており、その記憶が大きく影響している可能性は否定できない。

1975年に創設されて以降、これまでCFIUSが外国企業の買収を阻止した案件は6件だ(図表4)。そのうち5件は中国企業であり、残り1件も登記上の本社がシンガポールであった時代のブロードコムによるクアルコムの買収提案だった。

米国大統領及びCFISUが日本企業の買収提案を阻止した場合、それは米国の保護主義が新たな段階に入ったことを示すだろう。同盟国の企業ですら友好的な買収を拒絶されるのであれば、国際社会の分断を象徴する事例と言えそうだ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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