- Article Title
- G7の不安定化が象徴する分断
年明け早々、カナダのジャスティン・トルドー首相が辞意を表明した。日本では石破政権が衆議院で少数与党になり、ドイツは2月23日の総選挙でオラフ・ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)の苦戦が伝えられている。『米国第一主義』を主張する「ドナルド・トランプ大統領」が再登板することもあり、2025年は主要国の政治不安定化するなか、国際社会の分断が加速する年になりそうだ。
■荒れるG7の政治
トランプ次期大統領は、昨年11月25日、就任後、麻薬性鎮痛剤フェンタニルの違法輸入に関し、製造元とされる中国に10%の追加関税、密輸入ルートであるメキシコ、カナダからの全輸入品に25%の関税を課すと発表した。オピオイド中毒が深刻化していることは間違いない。一方、昨年1-10月の貿易赤字を国別に見ると、中国がトップで2,454億ドル、メキシコは2番目の1,419億ドル、カナダは9番目で505億ドルだった(図表1)。本件には通商問題も絡むと考えるべきだろう。
これに素早く反応したのがカナダのトルドー首相だった。1月30日にマル・アラーゴを訪問、トランプ次期大統領との会談に臨んだのである。物価高騰などで同首相の支持率は低迷、今年10月までに行う総選挙で与党・自由党が劣勢との見方が強まっていた。結局、1月6日、トルドー首相は辞意表明に追い込まれている(図表2)。
カナダは今年のG7サミット議長国だ。しかし、同国の政治の不透明感などから、年が明けてもサミットの日程は確定していない。2025年におけるG7の関係を象徴する事象と言えよう。
昨年10月27日の総選挙により自民、公明両党は衆議院で少数与党になった。石破茂首相の国会運営は厳しさを増しており、7月の参議院選挙を前に総理・総裁交代論が強まる可能性は否定できない。
ドイツでは、昨年12月16日、オラフ・ショルツ内閣の信任案が否決され、今年2月23日に総選挙が行われる。ショルツ首相率いるSPDは劣勢であり、政権交代との見方が強まった。また、昨年7月の総選挙で14年ぶりに政権を奪還した英国労働党のキア・スターマー首相も、増税策への反発から早くも支持率が急落している。G7で政権が安定しているのは、トランプ次期大統領の米国の他、ジョルジャ・メローニ首相のイタリアだけではないか。
■インフレ、地政学的リスクの回避
1991年12月25日の旧ソ連崩壊により東西冷戦が終結、国際社会はグローバリゼーションの時代に突入した。米国主導でサプライチェーンが統合され、労働コストが低く、教育水準の高い中国、ASEAN、メキシコ、インドなどが工業化を達成したのだ。2023年までの33年間、世界の貿易額は年率6.0%のペースで成長した(図表3)。
分断の時代は経済がブロック化し、サプライチェーンが統合されないため、どうしてもコストが上がる。さらに、米ソの代理戦争的な地域紛争が資源価格を高騰させ、1960~80年代の世界経済は明らかにインフレの様相を呈していた(図表4)。一方、1990~2010年代のグローバリゼーションの時代は、国境を越えたヒト、モノ、カネの移動の自由度が増したことから、経済の効率性が高まった結果、主要国の物価は抑制されたのである。
2016年6月23日の英国におけるBrexitの国民投票、同年11月8日の米国大統領選挙でのトランプ氏勝利は、グローバリゼーションの時代が終わる前兆だったのではないか。その後8年間、中国の海洋進出、新型コロナ、ロシアによるウクライナ侵攻などがあり、国際社会の分断は一段と深まった。さらに、2025年は世界に「トランプ旋風」が吹き荒れるだろう。それは、政治的には国際社会分断を加速させ、経済的には世界にインフレをもたらすと想定される。インフレへの備え、そして地政学的リスクの回避が、投資の重要なテーマになりそうだ。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。