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- 強い米国経済 利上げの可能性
個人消費がGDPの7割弱を占める米国経済において、景気の方向性を決めるのは雇用だ。シニア層の早期リタイア、不法入国者の抑制策は、人手不足を恒常化させる結果、低失業率、高賃上げ率の状態が続くだろう。1月20日に就任するドナルド・トランプ次期大統領の政策によっては、インフレ圧力が高まると想定される。2025年後半にも、FRBが利上げを検討する可能性は否定できない。
■ 細る労働供給が支える景気
米国の昨年12月における雇用統計では、非農業雇用者数が市場の予想を大きく上回り、前月比25万6千人増加した(図表1)。また、失業率は前月に比べ0.1%ポイント低下の4.1%で、歴史的な低水準を続けている。景気の鍵を握る雇用は、依然として堅調と言えるだろう。
他の先進国同様、米国でも生産人口の高齢化が進んでいる。そうしたなか、新型コロナ禍を機にシニア層が大量にリタイアした模様だ。加えて、第1次トランプ政権以降、不法入国者に厳しい対応が採られてきた。民主党のジョー・バイデン政権も、移民に対して寛容だったわけではない。結果として労働供給量が細っており、事業主は賃金を上げなければ人材を確保できなくなっている。
11月の求人及び転職統計によると、求人数は810万人であり、6ヶ月ぶりに800万人台を回復した。求人倍率を算出すると1.14だ(図表2)。新型コロナ禍から経済が正常化する初期段階であった2022年7月の2.00倍からは低下したものの、引き続き高水準と言えるだろう。求人倍率は平均時給上昇率と連動する傾向が強く、賃上げ率の高止まりは簡単には解消されそうにない。
12月の平均時給の伸びは前年同月比3.9%であり、11月から0.1%ポイント低下した。もっとも、個人消費支出物価上昇率は同2.6~2.8%程度であり、実質賃金の伸びは1%ポイント以上確保されている(図表3)。低失業率、高賃上げ率は、個人消費を刺激する結果、好景気が持続する重要な前提条件だ。トランプ次期大統領による政策、特に関税の影響には不透明感が強い。それでも、今のところ米国経済が失速する兆候は見られていないと言えるだろう。
■ 利上げ検討の可能性
短期金利の指標である無担保翌日物調達金利(SOFR)とその先物のスプレッドは、足下、概ねゼロになっている(図表4)。ジェローム・パウエル議長率いるFRBは、金融政策の変更に関し市場との対話を強く意識してきた。従って、2022年3月以降、11回行われた利上げ、そして3回の利下げでは、事前にこのスプレッドが開き、概ね正確に政策の変更を織り込んでいたのである。
足下、スプレッドがほぼ完全に解消されたのは、マーケットが、当面、利下げはないと判断していることを示すだろう。それは、裏を返せばFRBのメッセージを反映していることにもなる。
トランプ次期大統領による、不法入国者の強制送還は労働力不足を加速させる可能性が強い。さらに、関税を強化・拡大した場合、納税義務を負うのは米国の輸入事業者だ。最終的には価格転嫁され、米国の消費者が実質的な担税者になる。つまり、米国が新たに連邦レベルでの間接税を導入するのと効果は等しい。こうした移民政策と関税政策の組み合わせは、米国のインフレ圧力を高める結果になるのではないか。
FRBにとっては、足下の雇用市場が堅調であるなか、「トランプ政権」の政策が経済に与えるインパクトを見極める必要がある。新たなアクションは採り難いだろう。ただし、利下げは既に最終段階と言え、2025年末のFFレートの誘導水準は4±0.25%程度と想定される。
経済の状況次第では、今年後半、もしくは来年前半にも、FRBが利上げを行うとの観測が台頭する可能性も否定できない。長期金利は、既にそうした政策の変化を織り込みつつあるのではないか
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