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日中関係に改善の兆し
市川 眞一
2025/01/31

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概要

1月13~15日、自民党の森山裕幹事長、公明党の西田実仁幹事長が北京を訪れ、中国共産党ナンバー2の李強国務院総理と会談した。5月の連休中には石破茂首相が訪中、習近平国家主席との首脳会談に臨む可能性もある。経済安全保障を巡り対立が目立っている日中関係だが、2025年は改善に向かうのではないか。背景にドナルド・トランプ米国大統領の存在があるだろう。



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■ 中国に必須な内需型への転換

昨年1-11月期、米国の対中輸入額は前年同期比2.1%の微増だった。世界全体だと同5.2%伸びているため、2021年に21%を超えていた中国のシェアは、足下、13.5%へと低下している(図表1)。それでも、収支で見ると、米国の対中貿易赤字は2,704億ドルであり、他の国・地域から突出した状況に大きな変化はあない(図表2)。


トランプ大統領は、就任直前の1月17日、中国の習近平国家主席と電話で会談した。その直後、トゥルースソーシャルへ「習近平主席と私は世界をより平和で安全なものにするために全力を尽くす」と投稿している。もっとも、麻薬系鎮痛剤フェンタニルを巡り、正式就任後、同大統領は輸入経路であるメキシコ、カナダと共に、2月1日にも製造元とされる中国へ10%の追加関税を課す意向を示唆した。貿易収支に拘るトランプ大統領は、厳しい姿勢で対中交渉に臨むだろう。


中国は、対米輸出依存度を下げるため、内需拡大を図らざるを得ない。もっとも、同国のGDPの構成を見ると、固定資本投資が42.1%を占め、日本の25.6%、米国21.4%、ユーロ圏21.9%と大きく異なる(図表3)。これは、1970年代末、鄧小平氏による改革開放が、世界の工場として輸出主導の経成長を目指したことが要因ではないか。典型的な新興国の経済構造だ。


しかし、中国のGDPは既に米国に次ぐ世界第2位になった。最早、輸出主導での成長は難しい上、1980年代の日本同様、それが他国との通商摩擦を招くことは必然だ。国営企業や共産党系企業などの過剰投資を抑え、老朽化設備を除却すると共に、内需振興策を進めざるを得ないだろう。

■ 日中双方に関係改善への動機

習近平政権は、米国との通商交渉を進めつつ、経済構造の転換を図り、消費の拡大を進める考えと見られる。ただし、成果を得るには相当の時間を要するため、まずはトランプ対策が喫緊の課題ではないか。米国と渡り合うには、中国単独では難しい。そこで、経済・通商面では日本、EUなどとの連携強化を目指しているようだ。福島第一原子力発電所から太平洋へ放出される処理水を巡り、中国は大きく姿勢を転換しつつある。それは、同国の外交戦略の変化を象徴しているだろう。

他方、日本政府にとっても、トランプ大統領の圧力に備え、交渉の有力なカードが必要だ。中国との関係強化はその候補の一枚と言える。


安倍晋三元首相は、自民党内の反対意見を抑えて、2020年4月、習近平国家主席を国賓として招く予定だった。新型コロナ禍で無期限延期になったが、それはトランプ大統領への牽制の意味があったと考えられる。同大統領と良好な関係を築いた安倍元首相だったが、個人的な信頼関係のみに依存しない外交姿勢の現れと言えそうだ。


森山自民党幹事長、西田公明党幹事長と会談した李強国務院総理は、石破首相の訪中を提案したと報じられている。タイミングとしては、5月のゴールデンウィークがメドになるだろう。

石破内閣は、昨年10月27日の総選挙で衆議院において与党が過半数を失い、厳しい国会対策を強いられている。ただし、世論調査を見ると、支持率の急落は免れており、7月の参議院選挙が石破政権下で行われる可能性が強まった(図表4)。来年度予算の早期成立と共に、参議院選前に対中外交での成果を目指すと見られる。日中共に関係改善への強い動機があると言えるだろう。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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