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「資産運用立国」はなぜ重要なのか
市川 眞一
2025/02/21

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概要

2024年の国際収支では、経常収支が29兆2,615億円の黒字だった。貿易収支、サービス収支は赤字だが、主に直接投資と証券投資による収益を示す第一次所得収支の黒字が40兆2,072億円に達したからだ。デジタル赤字は技術・産業面では大きな問題と言える。しかし、マクロ的に見た日本経済の極めて重要な課題は、対外投資の収益により経常黒字を維持することだろう。



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■ 貿易・サービス収支は赤字だが・・・

2022年に15兆5,107億円に達した貿易収支の赤字額は、昨年、3兆8,990億円へと縮小した(図表1)。輸出が前年比6兆116億円増加する一方、輸入はエネルギー価格の下落などにより同5兆6,000億円減少している。輸出に関しては、数量ベースだと6.5%減少したものの、輸出価格が16.6%上昇したことで、金額が膨んだ。円ベースでの価格上昇は、円安が大きな要因だろう。


また、サービス収支は2兆6,162億円の赤字だった。デジタル関連と言われる著作権等使用料、コンピューターサービス、専門・経営コンサルティングサービスの3分野に関しては、赤字額が前年の5兆3,452億円から6兆4,622億円へと拡大している(図表2)。米国の巨大テック企業への支払が急速に拡大していることから、日本を「デジタル小作人」と揶揄する声も少なくない。


人口知能(AI)を利活用するための前提となるビッグデータ関連ビジネスに関し、米系プラットフォーマーが圧倒的に先行していることは間違いない。日本企業がこの障を突き崩すのは極めて難しく、デジタル赤字は今後も拡大するだろう。これは、テクノロジーとインフラの問題であり、日本の技術開発及び産業にとり大きな課題と言える。



ただし、マクロ的に見た場合、貿易・サービス収支が大幅な赤字を計上したにも関わらず、2024年の経常収支は29兆2,615億円の黒字を維持した。直接投資と証券投資の収益を示す第一次所得収支が40兆2,072億円の黒字だったからだ。


■ 経常黒字の維持こそ重要課題

日本経済にとっての本質的な課題は、貿易収支の赤字が定着し、サービス収支においてデジタル赤字が拡大しても、経常収支の黒字を維持できるか否かだろう。構造的な人口減少・高齢化の下、長期的に経常収支の赤字となれば、それは明らかに日本が窮乏化するシナリオだからだ。


もっとも、足下、日本は世界への投資により経常黒字を維持できる状況になった。2024年の場合、雇用者報酬こそ288億円の支払い超過だったものの、直接投資の収益は24兆5,518億円、証券投資は14兆2,753億円の黒字だ(図表3)。


直接投資収益は、国境を越えた親会社、子会社間の配当金、利子などの受払を示している。このうち、再投資収益は海外の子会社の利益が内部留保として積み立てられたものであり、2024年は12兆1,215億円に達した(図表4)。10年前の3兆5,091億円と比べて急速な増加傾向を示し、国内の親会社が配当、利子などとして回収した12兆4,302億円と匹敵する規模になっている。


日本企業は現地生産を強化、為替の影響を受け難い経営構造への転換を図ってきた。貿易収支の赤字は、輸出から現地生産への切り替えで、第一次所得収支の黒字に変化したと考えられる。

また、証券投資についても、2024年の収益は14兆2,753億円に達し、過去最高を更新した。インフレ期待が高まるなか、家計の金融資産には貯蓄から投資への動きが見られる。特に海外の株式や投信へ投資が進み、国際収支上、証券投資による収益の拡大の一因になりつつあるようだ。

第一次所得の拡大は、お金(資本)に出稼ぎをさせることで、人口減少・高齢化の下で日本の経済、生活水準を維持する道と言える。デジタル赤字が拡大しても、それに見合う投資収益があれば、必ずしもマクロ的な問題ではない。だからこそ、「資産運用立国」が極めて重要なのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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