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- トランプ政権の政策に関する市場の懐疑論
1月20日の就任式以来、米国のドナルド・トランプ大統領は、主に大統領令を使って矢継ぎ早に政策を繰り出している。もっとも、米国株の対世界指数相対騰落率を見ると、主要市場で唯一のアンダーパフォームとなっている。また、期待インフレ率が高まる一方、ドルは下落歩調だ。これは、トランプ政権の関税、移民政策等に関し、市場がインフレと景気減速を懸念していることを示すだろう。
■ 米国株は一人負け
トランプ大統領が就任してから2月26日まで、米国市場では28営業日が経過した。第1次政権において、S&P500は2016年11月8日の大統領選挙から就任前日まで6.2%、就任日から28営業日目まで4.1%上昇している。政権公約で減税や規制緩和を掲げて再登板したトランプ大統領に対しては、今回も市場内において株価上昇への期待感が強かったのではないか。
しかしながら、少なくともこれまでのところ、結果は必ずしも芳しくない。大統領選挙が行われた昨年11月5日との比較した場合、就任直前の営業日だった今年1月17日の時点で、S&P500は3.7%の上昇に止まった(図表1)。また、就任後、2月26日までだとS&P500は0.7%下落している。
MSCI世界指数に対する米国株の相対騰落率は、就任日を基準にすると、現地通貨ベースで1.2%、ドルベースだと1.9%のアンダーパフォームだ(図表2)。1月31日の時点で米国株のウェートは世界指数の73.6%に達する。その巨大マーケットが世界平均に出遅れているため、日本株を含めた他の主要市場は軒並みアウトパフォームとなった。つまり、米国株は、トランプ大統領の就任後、言わば一人負けの状態になっている。
つまり、米国の株式市場にトランプ大統領の再登板に対する熱狂はないようだ。それは、1期目の出足との大きな違いと言えるだろう。むしろ、独自の政策がもたらすリスクに対して、マーケットの関心が高まっているのではないか。
■ 整合性を欠く政策のリスク
トランプ大統領による政策のリスクを如実に反映しているのが、市場の期待インフレ率だ。2年国債とインフレ連動債から算出した期待インフレ率は、昨年11月5日の大統領選挙当日に2.39%だったが、2月26日の時点では3.12%になった(図表3)。
また、インターコンチネンタル取引所(ICE)が算出するドル指数は、1月13日の109.66をピークにドル安方向へ転じている(図表4)。ドル相場は、このところ米国の10年国債利回りに連動して推移してきた。期待インフレ率が上昇する一方、10年国債利回りがむしろ低下しているのは、市場内において、米国景気の先行きに不透明感が高まっていることを示すだろう。ドル下落と合わせ、マーケットの現象を素直に解釈すれば、スタグフレーションが懸念されていると言えるのではないか。
ただし、不法入国者の抑制・強制退去により、米国の人手不足は簡単には解消されそうにない。従って、低失業率、高賃上げ率の状態が続き、米国経済が失速するリスクは小さいと考える。
むしろ、問題はインフレ圧力だ。トランプ大統領は、関税により製造業の国内回帰を促す一方、労働力の供給源であった移民を抑制しようとしている。米国企業、外国企業を問わず、高いコストを覚悟して米国国内に工場を建てるか、高関税を課されても外で作って米国へ輸出するか、二者択一を迫られているわけだ。企業が何れを選択するとしても、消費者物価を押し上げる可能性が強い。
政権発足から1ヶ月を経て、トランプ大統領は26日に初の閣議を行った。政策の評価には時期尚早とも言えるが、同大統領の公約が着実に実行されるならば、原油価格が相当程度下がらない限り、米国国内のインフレ圧力が高まるだろう。特に長期金利が上昇しているにも関わらず、ドルが下落する場合、それは市場が発した危険に関する重要なシグナルになるのではないか。
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