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中国は日本化しない
2025/02/18

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概要

投資家は、中国が抱える多額の債務と最近の経済的苦境により、1990年代初頭から日本が経験した「失われた数十年」のような債務デフレに陥る可能性があるのではないかと懸念しています。しかし、私たちはその可能性は低いと考えています。



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日本では1980年代後半から1990年代初頭にかけて負債が原因で市場の暴落が起こり、その結果、デフレと経済の停滞が数十年にわたり続きましたが、ようやくその状況から抜け出しつつあります。投資家は、中国が多額の債務を抱えていることから、それが原因で日本のような道を辿るのではないかと懸念しています。しかし、当時の日本と表面的な類似点はあるものの、中国が日本と同じ道を辿ることはないと考える理由があります。

1990年に株式市場が暴落するまでの数十年間、日本経済は着実な成長を遂げました。1950年から1989年の一人当たりGDP(国内総生産)成長率の年平均は5.7%でした。しかし、残念ながら債務も増加しました。1990年第1四半期までに、長期的な非線形トレンドを上回る民間債務はGDPの23%に達していました。

その後に起こった債務を原因とする破綻は、長年のデフレだけでなく、日本経済の低迷をもたらしました。1990年以降、一人当たりGDPの年平均成長率はわずか0.9%にとどまりました。

市場関係者は、現在の中国にかつての日本に似た動きを見ています。1979年から2024年の間、中国経済は一人当たり年平均7.7%成長しました(ただし、直近10年間は減速傾向にあります)。しかし、それには膨大な債務の蓄積が伴いました。2008年以降、経済規模に対する債務の割合は130%から280%に倍増しています(図1参照)。2016年第1四半期には、過剰な民間債務がGDPの26%とピークに達しました。これは中国の経済成長が減速し始めた時期でもあります。中国の株式市場は2021年1月のピークから45%下落し、デフレの影が経済に迫っており、政府は金融と財政の両面で景気刺激策を強化せざるを得なくなっています。



中国は日本ではない

しかし、数字を詳しく見ると、中国が現在置かれている状況と日本の35年前の状況には、根本的な違いがあることがわかります。ここで少し理論が必要になります。

過剰債務が慢性的なデフレにつながる経路は3つあります。1つ目は、債務返済のために資産を強制売却する金融的な経路です。2つ目は、金融危機への不安から人々がお金を貯め込み、経済の流動性が収縮する貨幣的な経路です。そして3つ目は、企業の債務不履行が銀行のバランスシートを毀損させ、貸し渋りを招く信用の経路です。緊急の流動性供給や銀行のバランスシート修復のための公的介入がない場合、これらのメカニズムはそれぞれ、デフォルト(債務不履行)の連鎖と根深いデフレを助長するリスクがあります。

一般的に、住宅用不動産市場が最もリスクが高くなります。しかし、この点で中国は、崩壊の瀬戸際にあった当時の日本ほど極端な状況にはありません。1990年、日本の住宅用不動産評価額はGDPの450%に達し、ピークをつけました。それに対し、中国はGDPの324%がピークで、その後2024年には265%まで下がっています(図2参照)。さらに、中国の住宅市場は経済全体に比べてほぼバランスが取れているようです。中国は世界の住宅価値の20%を占めており、これは世界のGDPに対する18%のシェアをわずかに上回る程度です。

また、投資家が債務の返済や資金繰りのために保有株式を売却する状況も、当時の日本ほど中国にとってリスクではありません。1980年代後半に日本の株式市場の時価総額はGDPの137%、当時の世界の時価総額の40%に達していました。ピーク時の日本株式市場の時価評価額は米国市場を上回っていました。それに比べ、中国株式は現在、世界の時価総額の9%と国内GDPの64%を占めるにすぎません。



独自の道を歩む中国

では、中国が日本のような道を辿らない場合、どのような結果が考えられるのでしょうか。

興味深いことに、私たちの調査で特定した66の過剰債務のケース のうち、債務水準がピークをつけた後に景気後退に陥ったのは58%のケースにすぎませんでした。景気後退がなかった場合、債務削減が進んだ国では、その後の7年間で平均経済成長率が0.8ポイント減速したにとどまりました。つまり、日本型のデフレの罠に陥るのは、必ずしも典型的な経路というわけではないのです。

成長トレンドの低下は、部分的には好景気の間に資本が蓄積されたためです。しかし、資本の限界収益率の低下は、農村から都市への移住による産業間の生産性向上や、イノベーションによるセクター内の生産性向上によって、部分的に相殺されるはずです。

政策の選択も重要な役割を果たします。日本の金融政策は、不動産バブルが崩壊した後も持続的に引き締め姿勢を維持し、実質金利が国の実質成長率を上回ることが多くありました。それに対し、中国人民銀行は、さらなる金融緩和の余地があるものの、実質金利が実質成長率を下回るように調整しています。

日本の行き過ぎた高金利が招いた結果のひとつは、経済が停滞するにもかかわらず円高が進行し、輸出産業の足かせとなったことです。それに対し、人民元は割高ではなく、中国製品の競争力が維持されています。さらに、米国の関税の脅威があっても、中国は1985年のプラザ合意で日本が受けたような形の圧力を受けるようなことはないでしょう。

加えて、中国政府は3月の全人代(全国人民代表大会)で新たな景気刺激策を打ち出すことが予想されます。これはGDPの2%相当と見られ、今年の政府の成長目標である5%を達成するための助けとなると考えます。経済の弱点である地方政府と銀行システムを支えるための公的な取り組みは、信用供給と信用需要の両面での落ち込みを防ぐ役割を果たすでしょう。

中国には確かに問題があります。しかし、好況期に国内債務が大幅に増加したものの、その後に経済構造やバランスが調整され、中国経済が「日本化」するとは考えにくいのです。表面的な情報に留まらず、実際の状況や背景を詳しく見ると、かつての日本と現在の中国が置かれている状況は類似しておらず、政策対応も異なるでしょう。中国が債務デフレーションによる「失われた数十年」に見舞われる可能性は極めて低いと言えます。2024年の中国のGDPは米国の63%に相当する規模でしたが、2030年までには73%に上昇すると予想しています。



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