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投資家の注目が戻りつつあるマレーシア株式市場
2025/03/14

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概要

これまで新興国株式の投資家から見過ごされがちだったマレーシア市場ですが、当社の分析と定期的な現地訪問から得た洞察により、その潮流が変わりつつあることがうかがえます。



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マレーシアでは6年間で4度の政権交代があり、世界最大級の汚職疑惑である「1MDBスキャンダル注1」に見舞われるなど長期にわたる政情不安から、同国の株式市場は他の新興国株式市場の成長に遅れをとってきました。政策立案の非効率性や経済・インフラ開発の遅れも加わり、一貫して外国人投資家による資金流出が続いてきました。MSCIエマージング・マーケット・インデックスにおけるマレーシアのウェイトは、1988年の指数創設時の34%から2025年1月末には1.4%へと大幅に低下しています(図1参照)。

注1:マレーシアの政府系投資会社「1MDB(One Malaysia Development Berhad)」を巡る汚職疑惑


しかし、この状況に変化の兆しが見え始めています。アンワル・イブラヒム現首相の就任以来、マレーシアは一定の政治的安定を取り戻し、大規模な経済・政策改革(世界で最も低い水準にあった国内の石油価格に対する広範な補助金の廃止など)を追求する基盤が整いつつあります。

資金力のある政府系投資会社1に支えられ、海外への投資に向けられていた資金が、マレーシア国内の主要経済セクターへ回帰するようになってきました。これにより、同国は失われた10年から脱却し、今後10年の主要なテーマであるテクノロジーと地政学にうまく対応できる立場を築いています。

「東洋のシリコンバレー」と呼ばれ、世界の半導体輸出額の5%以上を占めるペナン州を最近訪れた際、活気に満ちたテクノロジーハブを目の当たりにしました。この地域には世界有数の3つのチップメーカーが拠点を構えています。米中貿易摩擦が深刻化する中、ペナン州への投資需要が著しく高まり、その95%が海外(主に米国)からの投資となっています(図2参照)。



マレーシアは政府による支援、欧米企業との長年の取引や、ペナン州に根付くそれら企業のサプライチェーンなどを背景に、IC(集積回路)設計、先端パッケージング注2、半導体装置製造などの主要テクノロジー分野で更なる高付加価値化を目指し、厳選した外国直接投資(FDI)を呼び込みつつあります。国家半導体戦略では、5,000億リンギット(約1,100億米ドル注3)の投資を呼び込み、IC設計と先端パッケージングに特化した10社の国内企業を創出することを目指しています。

注2)複数の半導体チップを1つのパッケージに実装する技術
注3)本稿執筆時点のレートで換算

さらに南のクアラルンプールでは、非効率なエネルギー・ネットワークを数年にわたる国内投資のチャンスに変えることによって、最近のAI開発事業を呼び込むことに成功した同国の取り組みについて学びました。マレーシアは約40%という比較的高い余剰エネルギー率を有しており、データセンター立地の分散化を求めるハイパースケーラーと呼ばれる大手クラウドサービスプロバイダーを国内に呼び込むことに成功しています。例えば、マイクロソフト(Microsoft)やグーグル(Google)などが、それぞれ10か所以上のデータセンターを国内に建設する計画です。

安定的で持続可能なエネルギーインフラに加え、マレーシアはデータセンターにとって戦略的な立地条件を有しており、シンガポールとの関係改善や、ジョホール・シンガポール経済特別区設立の計画実現により、さらに有利になると見込まれています。また、豊富な資源や政府の強力な支援にも恵まれています。当局は2021年から2023年にかけて240億米ドルのデータセンター投資を承認しており、さらに多くの投資が控えています。このため、データセンター建設ブームは今後10年間続くと予想されます。

しかし、第2次トランプ政権が発足したことにより、アジアの新興国全体で慎重な姿勢が強まる可能性があり、海外からのマレーシアへの投資が短期的に減速する可能性も否定できません。中国に焦点が当てられていますが、マレーシアの輸出と通貨も米国の関税措置で悪影響を受ける可能性があります(マレーシアは輸出がGDP(国内総生産)の80%を占める比較的開放的な経済で、最大の貿易相手国は中国です)。しかし、経済・政策改革や政治の安定化が進むことで国内消費の改善が続けば、この影響を和らげることができるでしょう。

テクノロジーの進歩と、「中国・台湾+1」移転計画による投資の拡大を背景に米中のデカップリングが続く中で、マレーシアがその潜在能力を発揮していく過程に大きな期待を寄せています。地政学的不安が続く中、インテル(Intel)やペナンのBYDエレクトロニクスのような高付加価値サプライチェーンや、マイクロソフト(Microsoft)やジョホールのバイトダンス(ByteDance)のようなホスティングプロバイダー注4に対して中立的な立場を提供できることが、マレーシアの貴重な市場特性となっています。長らく株式投資家から見過ごされてきた市場ですが、マレーシアは再び注目を集めることになるでしょう。

注4:データを保存するためのサーバースペースを提供する企業。

[1]マレーシアの政府系投資会社は国内主要プレーヤーで、マレーシアの株式市場とその高いバリュエーションを支えています。一方で、市場の流動性を低下させる原因のひとつと見られています(本稿執筆時点では、売買高10億米ドル以上は13銘柄のみ)。マレーシア証券取引所の「バリューアップ」計画がこの問題の解決につながる可能性があります。

 




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