- Article Title
- 再生可能天然ガス:ごみを低炭素エネルギーに変える
古代アッシリア人が世界で最初に使ったとされるバイオガスは、多くの環境的・経済的利益をもたらす可能性のある、低炭素ソリューションに変わろうとしています。
動物の排泄物、下水の汚泥、生ごみなどの腐敗した有機物から発生する可燃性ガスは、人類が何百年も前から利用してきた再生可能エネルギーの重要な源泉です。古代アッシリア人は紀元前900年頃には、風呂を沸かすためにバイオガスを使っていたとされます。
この古代からある低炭素燃料は、地球温暖化の進行を効果的に遅らせる可能性がある解決策(ソリューション)へと進化しています。再生可能天然ガス(RNG)は、この技術革新によって生まれたもので、二酸化炭素だけでなく、より強力なメタンガスを含む温室効果ガスの削減に貢献するものです。また、環境面や経済面に多くの効果をもたらす可能性があります。
メタンガスを削減するRNG技術は長らく見過ごされてきましたが、近年再び注目を集めています。2024年11月にアゼルバイジャンで開催された「第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)」では、風力、太陽光、水力など、よく知られた再生可能エネルギーと並んで、RNGが初めて重要課題として取り上げられました。
牛の反芻に似た製造手法
バイオガスの製造方法は何百年も変わっていません。細菌(バクテリア)が酵素なしで有機物を分解する際にバイオガスを放出する「嫌気性消化」によって生成されます。これは、牛が草を消化する反芻プロセスに似ています。
バイオガスは、メタンガスと二酸化炭素を主成分とし、熱、エネルギー、輸送用燃料などを供給しますが、二酸化炭素を除去すると純粋な代替燃料になります。このバイオメタン、つまりRNG(Renewable Natural Gas)は、天然ガスとほぼ同じ特性を持っているため、天然ガスのパイプラインや天然ガス自動車に使用できます。
国連が「各方面に極めて有益な技術」1と評したRNGは、多くの目標を同時に実現する可能性を秘めています。
■再生可能エネルギーの生産
バイオガスには、世界の一次エネルギー消費の約6~9%、または世界の石炭消費の約3分の1を代替するのに十分な、最大14,000テラワット時のエネルギーを生産する潜在能力があります。また、電力として使用する場合には、世界の電力使用量の約16~22%を満たす可能性があります。最近の研究によると、米国最大の自治体であるニューヨーク市は、購入する化石燃料ガスの27%をRNGに置き換えることが可能であり、これは市が保有する大型トラックを動かすのに十分な量です2。
■廃棄物処理およびメタンガス排出量の削減
RNG技術は、二酸化炭素の約28倍の熱を蓄積し、回収されなければ大気中に放出されてしまう温室効果ガスであるメタンガスを回収します。RNG技術は、農業や大型輸送機を使用する業界など、排出削減が難しい産業の脱炭素化に寄与します。また、食品廃棄物、農業廃棄物や埋立地から出る残滓の処理にも用いられ、効率的な廃棄物処理に貢献しています。
■栄養素回収など
嫌気性消化の残滓の一つである「発酵残渣」は、微生物の死骸から作られる栄養価の高い懸濁液(スラリー)で、土壌の健康を改善する価値の高い肥料です。RNG技術は、大気汚染防止や空気・水質の改善にも寄与します3。
■財政面、および経済面の効果
RNGはメタンガスやその他の廃棄物を収益化し、価値ある資源に転換することで、廃棄物処理会社に長期的な収入源を提供します。これにより、企業の財務パフォーマンスが向上するだけでなく、持続可能なビジネス慣行に沿った経営が可能になります。
「今後は、需要の増大がRNGの生産拡大を後押しする可能性があると考えます。
今日の廃棄物は、将来のエネルギー・システムを構成する重要な一部になります。」
生産規模の拡大
様々なメリットがあるにもかかわらず、RNGの普及は進んでいません。
エネルギー生産と温室効果ガス排出量削減に寄与するRNGの潜在能力の97%が未だに活用されておらず、一次エネルギー全体に占めるRNGの比率はわずか0.3%に留まります4。
最大の障害は初期資本コストの高さです。廃棄物からRNGを生産する施設の設置には、生産量1メガワット当たり100万米ドルから500万米ドルが必要です5。
もっとも、これは太陽光発電や風力発電のコストとほぼ変わらず、単位当たりコストは規模の経済によって、徐々に下がっています。国際エネルギー機関(IEA)は、2040年のバイオメタン生産コストが世界平均で現在より25%程度低くなると試算しています6。
RNGの普及に必要な技術と生産規模には、改善の余地が残されています。より高度で効率的な嫌気性消化技術は、操業コストを下げるだけでなく、メタンガスの漏れを最小限に抑えるのに役立ちます。有機廃棄物の回収からRNG生産までの堅固な構造を備えた産業規模のサプライチェーンは、RNGの競争力を高めるはずです。
現時点では、RNGの普及を促進するための具体的な政策がないことも障害ですが、状況は変化しています。欧州連合(EU)は、2024年5月に、エネルギー部門におけるメタン排出量削減に関する初の規則を採択し7 2024年11月にアゼルバイジャンの首都バクーで開催されたCOP29では、有機性廃棄物からのメタン削減宣言が発表されました。
今後、需要の増大がRNGの生産拡大を後押しする可能性がありますが、IEAは2040年の世界の需要が2018年の約80倍に拡大するものと試算しています(図表参照)。
RNGの長期的な可能性には今後も注目が必要でしょう。COP29で発表された主要な政策イニシアチブによって社会の関心が高まれば、今日の廃棄物が将来のエネルギー・システムを構成する重要な一部になることに、これまで以上の関心が集まるものと考えます。
投資のためのインサイト
RNGは、今後数年間で廃棄物処理業界の成長の原動力となる可能性があります。世界各国が廃棄物処理に関する規制を強化し、温室効果ガス排出量の削減を求める中で、低炭素、あるいは、(二酸化炭素の排出量よりも吸収量が多い)カーボン・ネガティブのRNGに対する需要は更に拡大することが予想されます。米国では、2022年のRNG生産能力が2018年の水準を218%上回りました。現在、稼働中の生産施設は280を超え、建設中の施設は500を超えています8が、非上場の中小企業が多いため、業界の規模を正確に測るのは困難です。しかし、北米の主要企業4社の売上は、今後3年間で年率約7%の伸びが見込まれます9。
RNGは廃棄物処理企業に新しい収入源を提供します。現在の価格と様々な税制優遇措置を考慮すると、廃水処理施設と埋立地プロジェクトの初年度収益は、それぞれMMBtu(100万英国熱量単位)あたり1.46米ドルと9.79米ドルと試算されています。RNGを現在の市場価格MMBtuあたり29米ドル(本稿執筆時の価格)で販売すれば、利益が更に増えるでしょう10。
暖房や輸送用にRNGを採用した地方自治体や民間企業は、エネルギー・コストを削減すると同時に、再生可能エネルギーの普及を推進するために政府が導入した報奨金(インセンティブ)や補助金を得ることができます。米国のインフレ抑制法(IRA)の税額控除は、地方自治体の廃棄物処理施設の要件を満たしたバイオガス資産の価値の最大50%に適用される可能性があります。また、地方自治体が所有するガス供給会社は、国内の固形廃棄物処理施設や排水処理施設のほとんどを所有・運営しており、これらの施設で発生する残滓が、RNG原料の75%(容量ベース)を占めています。
[1] Niclas Svenningsen at UN Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), World BiogasAssociation
[2] https://static1.squarespace.com/static/53a09c47e4b050b5ad5bf4f5/t/647e49164a096110ae94a8ac/1685997851943/2023+Gotham-Gas-Goes-Green.pdf
[3] US EPA
[4] https://www.iea.org/reports/outlook-for-biogas-and-biomethane-prospects-for-organic-growth/an-introduction-to-biogas-and-biomethane
[5] https://www.epa.gov/sites/default/files/2020-07/documents/lmop_rng_document.pdf
[6] At around USD14/MBtu (million British thermal units). Source: IEA
[7] https://energy.ec.europa.eu/news/new-eu-methane-regulation-reduce-harmful-emissions-fossil-fuels-europe-and-abroad-2024-05-27_en
[8] https://www.spglobal.com/commodityinsights/en/market-insights/blogs/energy-transition/072423-renewable-natural-gas-and-hydrogen-fuels-of-the-future-for-transportation-decarbonization
[9] Waste Management Inc, Republic Services, Waste Connections and GFL Environmental Inc.Source: Bloomberg and Pictet Asset Management, as of 21.10.2024
[10 ]Ibid.
[11] https://www2.deloitte.com/us/en/insights/industry/renewable-energy/opportunity-for-waste-to-energy-renewable-natural-gas-partnership.html
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。