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- 投資家が2024年から学ぶべき5つの教訓
2024年、金は異例な環境下で優れたパフォーマンスを発揮し、米国の例外主義は堅持されました。
目次
1.ファンダメンタルズが変わらなければ投資を続ける
2. インフレの克服は難しい
3. 米国の例外主義を当然視してはいけない
4. 極端な状況下ではバリュエーションが重要
5. 通貨価値の低下を想定したトレードは続く可能性がある
1.ファンダメンタルズが変わらなければ投資を続ける
2024年、株式市場が何度も高値を更新した中で、投資家は神経をすり減らしたかもしれませんが、最終的には株式を保有し続けたことが報われました。確かにバリュエーションは高騰しているように見えましたが、株式が市場最高値で取引されたのは全体の3割程度でした。そして、年間を通じて10%を超える株式市場の調整は一度も起きませんでした。最も大きな調整は夏に起きましたが、これは米国の景気後退に対する過度な警戒感によるもので、実際には景気後退は見られませんでした。
株式投資家にとって強いファンダメンタルズとは、企業収益を押し上げるトレンド以上の経済成長と、金利の低下を通じて株価のPER(株価収益率)を押し上げるインフレ率の低下に集約されます。そしてこれが、まさに2024年の米国のマクロ経済環境でした。2024年初時点で、米国のGDP成長率は1%を大きく下回ると予想されており、景気後退の確率は60%とされていました。しかし結果的に、世界最大の経済大国である米国は、その3倍の速さで成長しました。また、米国のコアインフレ率は予想を若干下回る2.8%まで低下し、これにより米連邦準備理事会(FRB)は年間3回の利下げを行いました。
2024年初から年末までにS&P500種株価指数は23%上昇しました。これはPERの上昇分が10%超で、残りは売上高の増加と利益率の改善がほぼ同程度に寄与しました。米国経済の成長懸念や地政学的リスクが意識されるような出来事による一時的な調整は、むしろ良い買い場となりました。
そして、これは米国だけの話ではありません。小規模な市場に影響を与える要因は、しばしば地域の経済状況よりもグローバルな要素が強く、国内の経済状況とは乖離する可能性があります。ドイツはヨーロッパの病人と呼ばれるかもしれませんが、2024年一年間でドイツの主要株価指数であるDAX指数は18%上昇し、最も好調な株価指数の一つでした。これは、DAX指数が景気循環性の高い銘柄で構成されていることと、金融株が比較的大きな比重を占めていることがプラスに寄与したためです。
2. インフレの克服は難しい
2021年から2022年にかけて急上昇したインフレ率が、現在同じような速さで低下していることは間違いありません。米国の総合インフレ率は2022年6月に9%、ユーロ圏のインフレ率は2022年10月に10.6%でピークに達しましたが、現在では両経済圏ともに3%を下回っています。
しかし、最近のデータによると、インフレ率は3%前後でしつこく推移しており、また、多くの中央銀行がインフレの指標として重視するコアインフレ率ではこれを上回っています。投資家や各国政府にとって重要なのはインフレ率ですが、消費者や有権者が最も気にするのは物価水準です。
「生活費の危機」が話題になったのには理由があります。2021から2022年にかけての急激なインフレにより、多くの人々の実質所得は長期間にわたり大幅に低下しました。米国とヨーロッパの実質賃金の中央値が上昇に転じたのは最近のことです。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)後におこった、このインフレ高進は、国内の排他主義や孤立主義を助長しました。多極的で政治的に分断された世界は今後も続くでしょう。2024年は、選挙運動期間中には通常有利とされている与党が、経済が混乱し生活費が最大の関心事となる状況では、致命的な弱点を抱えることを示しました。2024年に先進国で行われたすべての選挙で与党の得票率は低下しましたが、これは初めてのことで、与党(または前政権)の平均得票率は7ポイント低下し、過去最悪の結果となりました。
つまり、インフレ高進を許容して成長を後押しする政権は、退陣を求められるようです。結局のところ、平均的な消費者にとってインフレはわかりやすい税金なのです。
3. 米国の例外主義を当然視してはいけない
米国の例外性は確かに存在します。しかし、永続するとは限りません。
経済面では、米国は新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる経済危機から、他の先進国よりはるかに強固な経済基盤で立ち直り、パンデミック前のトレンドをさらに強めました。過去10年のうち9年間で、米国経済は毎年平均1ポイントの差で他の先進国を上回る成長を遂げています。
米国の強さの源泉は、エネルギーとテクノロジー産業にあります。米国は現在、圧倒的な差で世界最大の石油生産国となっており、シェールオイル産業の急成長のおかげで、2019年にエネルギー自給率100%を達成しました。また、人工知能(AI)の開発と導入においても圧倒的な優位性を持っています。興味深いことに、米国の小売り大手ウォルマート(Walmart)の株価は、AIの事業全般への早期導入の恩恵もあり、アマゾン(Amazon)よりも高い株価収益率で取引されています。
米国の例外主義は、株式市場を通して見るとさらに顕著です。MSCI世界株式指数に占める米国株式の割合は現在75%であり、10年前の57%から上昇しました。過去10年間、米国株式は他の先進国株式を年率8%以上アウトパフォームしてきました。また、米ドルは実質実効ベースで1986年以来の最高水準で取引されています。
しかし、こうした米国の経済的および地政学的リーダーシップは、見かけほど強固ではありません。投資家は、他の国々が米国との経済的、およびその他の分野におけるパフォーマンスの差を縮める可能性を排除すべきではないでしょう。
米国の例外性の一因は、他の主要経済国の経済的および政治的な弱さにありました。中国を見てみましょう。人口動態の悪化、過剰な債務、そして企業に不利な政策が相まって、中国のGDP成長率は4%台に低下しています。日本では、小泉純一郎元首相や安倍晋三元首相が掲げた経済や財政、行政などにおける構造改革への意欲が薄れ、日本銀行(日銀)が定めた物価目標を達成できなかったことで、政府は国民の信頼を損ねています。また、分断され指導者不在のヨーロッパは、失望を与え続けています。ヨーロッパは制度的、経済的、地政学的に脆弱すぎて、一貫した信頼できる成長戦略を構築できません。ドイツは再び「ヨーロッパの病人」となり、軽度ではあるものの長引く不況から抜け出せずにいます。フランスは政治的な行き詰まりに陥っています。そしてウクライナとその西側支援国は、ロシアとの戦争で守勢に立たされています。
したがって、米国の優位性を支える一因が他の主要経済国の失敗だとすると、2025年にはそうした国々がそれぞれ直面する問題に取り組み始め、米国の優位性が揺らぐ可能性もあります。
さらに、米国経済が相対的には良好に見えるとしても、絶対的な基準で見れば、良好とは言い難い状況を示す指標もあります。実質GDPはようやくコロナ禍前のトレンドに戻り、消費者信頼感指数は低迷しています。米国が間違った方向に向かっていると考える国民の割合は過去最高の75%に上ります。先進国で唯一、米国の平均寿命は低下傾向にあります。また、米国は産業基盤を空洞化させた結果、世界最大の債務国となっています。世界の外貨準備高に占める米ドルの割合は長年低下を続けています。そして数十年ぶりに、米国政府の利払い費用が国防費を上回りました。歴史家ニール・ファーガソンは、国債の利払い費用が国防費を上回る大国は、長くは大国の地位を維持できないと指摘しています。これはスペイン・ハプスブルク王朝、旧体制下のフランス、オスマン帝国、そして大英帝国にも当てはまりました。米国はその例外となり得るのでしょうか。
これまでのところ、米国の歴代政権による、経済制裁措置を通じた米ドルや経済・金融の武器化は失敗に終わっています。ロシアに対する制裁は同国経済の崩壊を引き起こしていません。中国に課した技術規制は、かえって同国が技術的自立を目指す動きを後押ししただけで、ファーウェイが開発した中国製の新型スマートフォンやOSが示すように、相当な成果を上げています。
4. 極端な状況下ではバリュエーションが重要
バリュートラップ(株価指標などから割安と判断されたたものの株価の低迷が続くこと)と見なされていた銘柄でも、短期的には上昇することがあります。ただし、ここからの教訓は、投資家は落ちるナイフを掴もうとすべきではない、ということではありません。むしろ、著しく割安で保有比率も低い、つまり悲観的な見方が強い資産に対して、極端に売却を重ねるべきではないということです。こうした銘柄は時に力強く、予想外に反発することがあります。今年の中国株や日本円のパフォーマンスを注視してみましょう。
中国株はまさにバリュートラップの典型のようです。2007年のピーク後、相対的に70%の価値を失い、現在は世界の株式に対して50%近い過去最高の割安水準で取引されています(12ヵ月先予想株価収益率ベース)。それも当然で、MSCI中国株指数の1株当たり利益は10年前から低下しているのに対し、S&P500指数の利益は同期間に2倍に増えています。中国経済は停滞しデフレに直面していると言えます。
ほとんどの投資家にとって中国は投資対象から外れていました。しかし、9月下旬から3週間足らずの間に、中国株は大幅に反発し、MSCI中国指数は年初来のワースト・パフォーマンス地域からベスト・パフォーマンス地域へと転じました。きっかけは、中国政府が、長年の懸案だった新たな景気刺激策を発表したことでした。その施策の内容自体は物足りないものでしたが、中国株式が極端に過小評価され、市場が悲観的な見方に大きく傾いていた状況では、株価の反発を引き起こすのには十分でした。
5. 通貨価値の低下を想定したトレードは続く可能性がある
2024年、伝統的資産クラスでは金が最も高いパフォーマンスを示し、年間で27%上昇しました。これは世界の株式を大きく上回るものでした。
さらに注目すべきは、この上昇が、やや異例の環境下で起こったことです。従来、金は米ドル安と実質金利の低下から恩恵を受けてきました。実質金利は金を保有する際のコストを表すとされます。しかし2024年は米ドル高が進行し、10年物米国債の利回りも上昇しました。これは非常に強い米ドルと、米連邦準備制度理事会(FRB)が金利をどこまで引き下げるかに対する期待の変化の結果です(図6参照)。
さらに、金の上昇は一般的なディフエンシブな資産への逃避や、インフレ期待の高まりでは説明できません。
地政学的リスクは高止まりしていましたが、市場に大きな影響はありませんでした。恐怖指数とも呼ばれるVIX指数は、年間を通じて過去の平均を下回っていました。また、インフレ期待もあまり変動せず、5年先5年期待インフレ率も2.2~2.4%の狭い範囲で推移しました。
当社のフェアバリュー・モデルによると、金はかなり過大評価されているように見えます。
それでは、金のパフォーマンスを説明するものは何でしょうか。2つの要因があります。1つは新興国の中央銀行による絶え間ない金の買い入れ、もう1つは米ドルの価値が下がることを前提にした通貨価値の低下を想定したトレードの台頭です。
前者は、新興国が米国の資産や米ドルから分散化を図る動きによるものです。
後者では、特に先進国において、政府債務と財政赤字が前例のない水準に達したことから、最終的には完全なデフォルトではなく、通貨の広範な下落が起こるのではないかという懸念が、金需要の増加につながっています。
また、米国でも財政破綻リスクが高まっています。
米国議会予算局の試算では、トランプ新政権の政策を前提とすると、債務残高の対GDP比率は現在の100%から2035年には143%に上昇し(現行法下では125%)、財政赤字対GDP比率は6.5%から9.7%に拡大する見込みで(現行法下では7%)、これは約5%の基礎的財政赤字に相当します。当社の試算では、国債利回りを5%、財政赤字を5%と仮定すると、2040年までに政府の利払い費用の対GDP比率は、危険水準とされる10%に達します(1990年代初めのイタリアと同水準)。その時点で、社会保障費の削減、富裕層を含む広範な増税、あるいは米ドルの切り下げのいずれかを選択せざるを得なくなります。最後の選択肢が最も現実的だと考える投資家がいるのも無理はありません。
こうした背景から、金は米ドルの下落リスクに対するヘッジとして注目されています。ビットコインもこのトレンドの恩恵を受けており、2024年には価格が2倍になり、11月のトランプ氏の大統領選勝利後にさらに大幅高となりました。ビットコインはまさに究極のトランプトレードでした。ただし、当社の見解では、ビットコインは宝くじのようなものであり、慎重な資産運用には適さないと考えています。
米国の財政破綻リスクに対するヘッジとして金に代わるものとしては、財政規律が確立し、インフレ率が適度な国の通貨が考えられます。スイスフランがその一例です。スイスはプライマリーバランスが黒字であり、経常収支は大幅な黒字を計上、生産性の向上、移民の受け入れ、政治的安定性から、米国に匹敵する潜在成長力があります。コロナ禍後、スイスのインフレ率は3.5%にとどまり、米国や欧州の3分の1の水準でした。
これらを勘案すると、金とスイスフランを保有するのが最良の選択肢と言えます。
日本円のサプライズ
日本円も2024年にサプライズを起こしました。日本円は1990年代初めから長期的な下落トレンドにあり、経済の低迷、政策の混乱、資金流出などがその背景にありました。2024年の夏には、日本円は対米ドルに対して160円で取引され、近年では最安値となりました。
日本円はピクテ戦略ユニットがモニターする50の資産クラスの中で最も割安な水準にあり、購買力平価為替レートに対して45%下回って取引されていました。その時点で、米国との金利差は5%ポイント以上あり、日本円は非常に魅力のない通貨と見なされていました。
しかし2024年7月に日銀による外国為替市場への介入が噂され、世界的にリスク資産が売却される中で、日本円は15%の反発を見せました。
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