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- 避難先としての社債
各国政府の財政赤字と債務残高の増加が、国債市場を暴落させる可能性があります。一方で、社債市場を避難先とする債券投資家もいます。
「債券自警団(Bond vigilantes)」という言葉は、政府の財政・金融政策の規律が緩み、インフレ懸念が出た際に国債を大規模に売却して警告を発する債券投資家を指しています。1980年代初頭に発生したインフレ・ショック後の経済回復期においては、債券自警団は問題を抱えた経済圏以外ではほとんど見られませんでした。しかし、パンデミック(新型コロナ感染症の世界的大流行)後のインフレ高進局面でその状況は変わりました。現在、先進国、特に米国やヨーロッパでは国の財政赤字に対する懸念が高まり、債券自警団の存在が再び国債市場に影を落としています。
債券投資家にとって幸いなことに、国債市場でリスクが高まる一方で、一定の安全マージンを提供してくれる市場の一角があります。それが社債市場です。一見すると直感に反するかもしれません。少なくとも先進国市場においては、国債は、他の債券商品の価格付けの基準となるリスクフリー・レートを表すはずです。一方で社債は、従来デフォルトリスクにさらされていると見なされてきました。
しかし、歴史的に見るとそうではありません。1980年以降、投資適格社債のデフォルト率は0.1%を下回っています。つまり、実質的にゼロであり、先進国の国債のデフォルトリスクとほぼ同等です。
その一方で、投資適格社債は国債に対してプレミアム利回りを提供しています(図1)。米投資適格社債の米国債に対するプレミアムは、2015年以降平均で149ベーシスポイント弱となっています。スプレッドが大きく縮小した現在でも、プレミアムは83ベーシスポイントあります。つまり、投資適格社債の投資家は、実質的に国債と同等のリスクを取り、国債から得る以上のリターンを得ているのです。
このプレミアムはバッファーを意味します。政府の財政赤字が危険なレベルに達し、さらに拡大している中で、投資家は神経質になっています。調査によると、政府の財政に関する悪いニュースは、世界で最も流動性の高い米国債市場でさえ、国債利回りを押し上げることが示されています。
しかし、債券投資家が国債市場に不安を感じたからと言って、必ずしもその国の投資適格社債が同様の影響を受けるとは限りません。新興国市場では、優良企業の社債利回りが自国の国債利回りを下回ることが多々ありますが、これは理にかなっています。例えば、グローバルに事業を展開し、広範囲から外貨収入を得ている企業は、単一商品の輸出に依存する国よりも債務返済能力が高いことが多いのです。
しかし、こうした事例は新興国市場だけに限りません。例えばフランスでは、製薬会社サノフィ(Sanofi)や一般消費財のロレアル(L’Oreal)の社債利回りが、同じ償還年限のフランス国債利回りを下回る場面が見られました。
社債市場の評価は高めですが、企業業績は依然として堅調で、企業のバランスシートは健全です。一方で、政府の財政状況は脆弱に見えます。例えば、社債の発行ペースは国債に比べてはるかに穏やかです(図2)。投資家は、かつて国債利回りがゼロに近かった頃ほどスプレッドには注目しておらず、各債券の利回りに安心感を持っています。社債が人気なのは、利回りが魅力的だからです 。
確かに、最終的に政府が資金を必要とした場合、企業に課税できます。しかし一方で、企業は低税率の国に事業を移転させることができることもよく知られています。過度に課税すれば、国内の経済活動を抑え、結果的に全体の税収を減らしてしまうリスクがあるのです。
エヌビディア(NVIDIA)株の暴落をきっかけとしたナスダック株式市場の下落や、ドナルド・トランプ米大統領の関税に関する発言による混乱など、最近の株式市場を大きく揺さぶるような出来事が起こった中でも、社債市場は底堅い動きを見せました。繰り返しになりますが、これは企業の堅調な収益と健全なバランスシート(図3)によるものです。近年、企業の借り入れ増加ペースは概ね利益成長率とフリーキャッシュフロー成長率に追随しており、企業が収益から債務を返済できる体力を維持してきました。一方、国債発行残高の伸びはGDP成長率を大きく上回っています。
この健全な状態は投資適格社債に限られません。デフォルト率が若干上昇しているものの、ハイイールド債のデフォルト率も低水準にあり、投資家の人気を集め、ハイイールド債券市場のスプレッドを押し下げています。
ブラック・スワン(予測不可能な出来事)のような事態が発生するリスクは常にあり、最も堅固な市場でさえも打撃を受ける可能性があります。大災害はさまざまな方向から襲ってくるものです。しかし、このような事態が発生しない限り、投資適格社債は同程度のリスクと見なされる国債を上回る利回りを提供するため、政府の財政問題が国債市場に負の影響を与える場合には相対的に安全な避難先となり得るでしょう。
1. Maria Vassalou, John Donaldson, “The critical role of US debt sustainability in the world financial architecture” Pictet Research Institute
https://www.pictet.com/uk/en/about/pictet-research-institute/role-us-debt-sustainability-in-financial-architecture
2. Roberto Cram, Howard Kung, Hanno Lustig, “Government Debt in Mature Economies. Safe or Risky?” August, 2024
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4935930
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