もっと知りたいメガトレンド
建築における人工知能の利用
森の中のロボット ~ すべての人に持続可能な木造住宅を
ロボットがすべての工程をこなして建てる木造住宅は、家の建築を身近なものにすると同時に、建設費用や資材を減らせる可能性があります。
ロンドン東部にある工場では、木製の板が梁や外壁用パネルに加工されています。
パネルにドリルで穴をあけ、接着剤を付けてブロックにします。床を固定し、壁を建て、屋根を設置し、窓枠を取り付けてガラスをはめこみます。このように部材を組み立てて、庭用の平屋の小屋やオフィス用のブース、二階建ての住宅等、様々な大きさの建物が建てられます。
ところが、家を建てている人の姿はどこにも見当たりません。
ロンドンのテック・スタートアップ企業、オートメーティッド・アーキテクチャー ( Automated Architecture:AUAR ) が設計したモデュール式規格住宅を一から組み立てているのはロボットだからです。
組み立て後に用途を決めることが出来る、おもちゃのレゴのようなプレハブ合板ブロックを使うことで、時間のかかる複雑な建築工程を、細かい工程に分解し、あらかじめプログラムされたロボットが作業をこなせるようにしているのです。
こうした工法は、建設コスト、搬入時間、環境への負荷を削減します。
AUARが設計した家の建設コストは市場平均を20%以上下回り、わずか6週間で引き渡しが可能です。また、従来型の建設工法と比べて、「目に見える」二酸化炭素排出量を80%削減します。これは、建設資材の調達、部材の製造、輸送、設置、廃棄物処理など、建設工程の最序盤、二年程度の期間に排出される二酸化炭素についてです。木材やその他のバイオ資材を使い、地元で製造し、建設工程を短くすることで、排出量が削減できるのです。
AUARなどが開発した、従来以上に持続可能な建設工法は、近い将来、標準的な選択肢になる可能性が高いと考えます。
21世紀末までに世界全体で20億戸の新築住宅が必要になると予測されることに加え、建設業界が排出する二酸化炭素が世界全体の排出量の40%を占めているからです。
「住宅についての根本的な見直しが必要だと考えます。現代社会は、月ロケットを打ち上げることが出来る一方で、家の建て方を改善することが考えられなくなっているからです」とAUARの共同創業者であり、チーフ・アーキテクトを務めるジル・レツィン(Gilles Retsin)氏は説明しており、「家を建てるには、時間がかかり、費用もかさみますから、そうしたリスクを取れるのは限られた人だけです。その結果、住宅市場が限定され、住宅の供給が足りず、住宅建設の意思決定を政府や大手のデベロッパーなど、少数の手に委ねることになっているのです。」とも話しています。
©AUAR
AUARは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのバートレット・スクール(建築環境学部)からスピンオフした企業ですが、人工知能(AI)や機械学習を活用することで、設計の最適化、資材効率の改善、コスト削減などを実現しています。
レツィン氏によれば、AUARの工法は、恒常的な人手不足に悩む、時代遅れで資源集約型産業の変革に寄与するはずです。
建設業界は多くの点で、時代の進歩から取り残され、過去の時代に「タイムスリップ」したかのような状況から抜け出せないでいます。平均的な建物を建てるには、7,000個以上の部品を使い、これを組み立てる必要があります。世界の建設業界の生産性には、過去20年間、伸びが見られず、製造業の生産性が同じ期間に3.6%上昇したのとは対照的です1。
「プレハブのブロックを使うことで家を建てることが以前よりも身近なことになり、工期も短縮されます。従って、建設コストが下がり、住宅市場がより多くの建設業者に開かれる可能性があります」と、バートレット・スクールの准教授でもある、レツィン氏は説明しています。
レツィン氏は、「工法を改善するよう、建築家や請負業者やデベロッパーを促すと同時に、家を初めて建てる人を励ましたい」のだそうです。
「ロボットやAIは、近くの森から切り出した木材など、地元の資材を使った、昔からの家の建て方を復活させているのです。」
組み立て、解体、繰り返し
AUARの工法の特長として、この他に、挙げられるのが、「クロス・ラミネート材(CLT)」と呼ばれる、環境に優しい加工木材を使っていることです2。
AUARのプレハブ板は、別の目的にも使えるように設計されており、建物が、将来の要求に継続的に対応できるよう、循環経済の概念を取り入れたものとなっています。
レツィン氏は、「世界が気候危機に直面する環境では、建築資材に木材が選ばれることは当然ですし、建設業界を自動化された業界に変貌させる可能性も秘めています。木材の生産工程は、すでに相当な程度、自動化されているのです。」 と話しています。
CLT市場は、2021年の11億米ドルから2027年には25億米ドルと、年率約15%の成長が見込まれます3。
2021年の「国際建築基準法」の画期的な改正により、木造建築の高さの制限が、従来の7階建てから18階建てに引き上げられたことを理由に、年率成長率は15%を上回ると考える専門家もいます。
AUARは、ベルギーのゲントに工場を建設中で、2024年には5台のロボットが40戸の住宅を建てる予定です。
一方、ロンドンの工場は、ロボットのプログラミング、建設システムの更新、納品へ向けてのテストなどを行う研究室を兼ねています。
AUARは不動産業界の戦略的投資家と提携して、欧州ならびに北米の他の地域にも事業展開し、6階建ての集合住宅の建設を計画しています。また、同社は2032年までに、1万戸のネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの建設を目指しています。
レツィン氏は、「ロボットやAIは、近くの森から切り出した木材など、地元の資材を使った、昔からの家の建て方を復活させているのです。」
「工期が長く、大量の汚染物質や廃棄物を出して気候危機を招いた、過去のグローバル・サプライチェーンは、もはや必要ありません。ロボットとAIが、地元に根付き持続可能な、美しい未来を築く助けとなるからです。」と話しています。
[1]McKinsey research
[2]https://am.pictet/en/globalwebsite/mega/2023/bringing-timber-to-the-masses
[3]Markets and markets
投資家のためのインサイト
- AIは、様々な業界で、ますます幅広く使われるようになっています。データ分析会社大手のグローバル・データ社は、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを含む世界のAI市場が、年率約19%の成長を遂げ、2026年には9,000億ドル規模に達すると試算しています。また、世界各国の生産性の改善に貢献し、最大7兆米ドルの経済効果をもたらすと予測しています。
- 10兆米ドルの規模を擁しながら、生産性の観点では、何十年にもわたって他の業界に出遅れてきた建設業界は、AIとロボット工学から大きな恩恵を受けることが予想されます。デジタル・テクノロジー、新素材、最先端の自動化技術等の革新的な技術を導入すれば、他業種との格差を1.6兆米ドル程度、縮小できる可能性があると、コンサルティング大手のマッキンゼーは予測しています。
- 木造建築は、建設業界の生産性の改善と環境への負荷の削減を同時に実現することが可能です。環境に優しいクロス・ラミネート材(CLT)は、住宅やビルの二酸化炭素排出量を減らすだけでなく、建設業界が、木材の生産工程にすでに導入済みされた高度な自動化技術を活用することを可能にします。インドの調査会マーケッツ・アンド・マーケッツによれば、CLT市場は、2021年の11億米ドルから2027年には27億米ドルと、年率約15%の成長が見込まれます。
本ページは2023年8月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集したものです。
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