Interview 1
小原一真
Kazuma Obara
第2回Prix Pictet Japan Award(2017)
ファイナリスト
Artist Interview
1986年 チェルノブイリ 原子力発電所事故
今回展示している「エクスポージャー」というシリーズは、チェルノブイリの原子力発電所事故で障害を負った女性を表現しています。1986年にチェルノブイリの原子力発電所事故があり、1986年9月、事故の5ヵ月後に生まれた今回のシリーズの主人公マリアはおなかの中で被爆しました。彼女は19歳になるまで、精神疾患と誤診され続けていたのですが、19歳になって初めて甲状腺の病気だということが分かり23歳で甲状腺を取り除くという手術をしました。その女の子の生涯を描いています。
©︎Kazuma Obara - Exposure
「見えないもの」を想像する
彼女の障害は甲状腺を取り除いた後、表面上は全く見えないものとなりましたし、事故から30年以上も経っているので周りの人間もチェルノブイリに対する認識がどんどん減っています。ですからなおのこと目に見えない障害を抱えているということが他者にとって彼女の障害を理解することを非常に難しいものにしており、今回のエクスポージャーというシリーズでは、「見えない障害」というものを想像してもらう、ということを主眼においた非常に抽象的な写真となっています。
1990年に消費期限が切れているウクライナ製のスヴェーマ(Svema)というフィルムを廃墟になっている場所で発見しました。30年くらい未使用のフィルムでそれを僕自身が写真家として感光させることにより、このような抽象的な画 ー4分から8分ほど露光しているんですけども ー そうすることによりこういった形で浮かび上がって来ました。こういった抽象的なチェルノブイリの彼女の画と言うものを提示しながらそこに彼女のストーリーを伝えることで「目に見えないものを想像する」、ということを僕の画を通して伝えたくこのような撮り方をしています。
「見えないもの」を想像する
被爆したフィルム
被爆したフィルム
スヴェーマ(Svema)というウクライナ製のフィルムが事故後廃墟になった町のある場所で90年代後半に見つかりました。なぜそこにフィルムがあったのか、誰にも分からないのですが、1990年に消費期限が切れている、被爆するような場所に置いてあったフィルムです。未露光で誰も使用してなかったフィルム。元々はカラーの中版フィルムで4分も露光すると通常であれば画が真っ白になってしまうのですがそれを白黒現像することでこういった違った形での表現が生まれました。
©︎Kazuma Obara - Exposure
現在の「チェルノブイリ」の捉えられ方
製作にあたってはリサーチをベースにどういった形で最終的にビジュアルを作るべきなのかを決めて行きます。自分の中で「チェルノブイリ」をリサーチしていく中で最初に出てきたキーワードは事故から30年たったチェルノブイリ事故の描かれ方は例えばゾンビを殺すゲームがチェルノブイリを舞台に作られていたり、ホラー映画でその廃墟で幽霊が出てくるようなハリウッドムービーがあったりとチェルノブイリという事故がエンターテイメントとして消費されている、ということでした。
今も年間1万人くらいの観光客がチェルノブイリの原子力発電所跡および廃墟を訪れています。例えば、インスタグラムでチェルノブイリっていうハッシュタグで検索すれば、たくさんのセルフィーが出てきます。
通常通りの表現を行った場合、ジャーナリズムとして、何か問題をはらんでいるという提言の前にエンターテイメントだと勘違いされてしまう可能性がある、ということがまずプロジェクトを始める前提段階にあり、それに抗うためにはどういうビジュアルが必要なのかということを考えたときに一切「チェルノブイリ」というものが感じられないビジュアルでなければエンターテイメントとして誤解されてしまう、ゾンビだとかそういうものが連想されていくような間違った方向に人を導いてしまうかもしれないと思いました。
そうではなく、本当に抽象的にビジュアルを作ることにより見てくれる人に先にスペースを提供し、そこからテキストとして彼女の見えないその障害を伝えることで、初めてチェルノブイリと目には見えない障害が結びつき、今現在のその複雑なチェルノブイリの状況を理解するに至る。そういうイメージが自分の中にあり、こういうビジュアルを作りました。
2018年12月12日
代官山 ヒルサイドフォーラムにてインタビュー