Article Title
原油価格急落と、懸念される影響
梅澤 利文
2020/03/09

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

OPECとロシアなど非加盟の主要産油国による減産強化の交渉は6日に決裂しました。これ以上の減産に否定的なロシアの反対がネックとなった模様です。また、減産を示唆していたサウジアラビアが、4月からの増産に転じたことで原油価格は急落しました。原油市場の今後の動向は想定しがたいですが、仮に現水準が継続した場合、「弱いセクター」への影響が懸念されます。



Article Body Text

原油価格急落:OPECプラスの減産強化は合意に至らず、サウジは増産を示唆

原油価格が急落しました。2020年3月9日午前(日本時間)の取引で、原油価格は91年の湾岸戦争以降で最も大幅に下げました(図表1参照)。石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」が減産強化で合意に至らなかったことを受け、主要産油国が価格戦争に事実上突入したことへの懸念などが背景と見られます。

なお、サウジの国営石油会社サウジアラムコが4月の日本を含むアジア向け軽質油の公式販売価格(OSP)を1バレルあたり6ドル引き下げ、米国向けは7ドル、欧州向けを8ドル引き下げる方針が伝えられています。少なくとも過去20年で最大の値下げに踏み切る模様です。

 

 

どこに注目すべきか:OPEC、協調減産、OSP、ハイイールド債

OPECとロシアなど非加盟の主要産油国による減産強化の交渉は6日に決裂しました。これ以上の減産に否定的なロシアの反対がネックとなった模様です。また、減産を示唆していたサウジアラビアが、4月からの増産に転じたことで原油価格は急落しました。原油市場の今後の動向は想定しがたいですが、仮に現水準が継続した場合、「弱いセクター」への影響が懸念されます。

まず、減産について簡単に振り返ると、現在OPECなどが合意している減産は4月までと期限は目前に迫っています。ロシアが減産に反対する理由は、これまでの減産で米国が石油市場でシェアを拡大したことに危機感を持っていたためと見られます。

なお、国際エネルギー機関(IEA)の2月の見通しでは4-6月期に原油需要は回復すると見込まれていました。3月(9日公表予定)の見通しで4-6月期の原油需要見通しが引き下げられれば、供給過剰懸念がいっそう強まります。

この中で、OSPを引き下げたサウジアラビアが(恐らく)シェア拡大を意図して4月以降増産に転じるのであれば、原油価格は軟調な展開が想定されます。この時期にシェア回復を本当に目指しているのか腑に落ちない面はありますが、懸念されるのは原油価格下落に「弱いセクター」です。

例えば、オイルセクターの構成比率が高い米国のハイイールド債市場では米国債とハイイールド債の利回り格差(スプレッド)が拡大(価格は下落)しています(図表2参照)。なお、米ハイイールド債は原油価格が下落した15~16年にもスプレッドが拡大しています。従前から懸念していたところですが、スプレッドを今後も注視する必要があると見ています。

小規模な産油国、特に産業の大半を石油や天然ガス生産に依存している国々も気がかりです。これら産油国の格付けはアンゴラやオマーンで最近引き下げられたように財務状況を見る目が厳しくなっている印象です。原油価格の低下は原油輸入国や消費にプラス面も期待はされますが、今はマイナス面が先立つ展開で、他にもあるであろう「弱いセクター」の動向に当面注視が必要と見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応

米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた