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- 関税の嵐の中、インド中銀利下げの背景を探る
インド準備銀行は市場予想通りに政策金利を0.25%引き下げた。利下げの背景は食料品価格の落ち着きや景気回復の鈍さと指摘した。なお、金融政策のスタンスを「緩和的」に変更した。トランプ政権の関税政策はインド中銀にとって不確実要因で、成長と物価に不透明感がある。インド政府は融和姿勢で米国と交渉しているが、インド中銀は交渉の進展を見守りながら金融政策を運営するスタンスと思われる。
インド中銀は4月の会合で市場予想通り0.25%の引き下げを決定した
インド準備銀行(中央銀行)は4月7日~9日に開催した金融政策委員会(MPC)で、市場予想通り政策金利を6.25%から0.25%引き下げて6.00%にすることを決定した(図表1参照)。今回の利下げは、5年ぶりの利下げとなった前回(25年1月会合)に続き、2会合連続となった。
インド中銀のマルホトラ総裁は利下げの背景として、食料品価格の落ち着きに伴うインフレ鈍化見通しや、景気回復の鈍さを指摘した。なお、インド中銀は金融政策のスタンスをこれまでの「中立」から「緩和的」へと変更した。マルホトラ総裁は「緩和的」の意味を、「今後の金融政策は据え置きか利下げを選択することになる」と説明した。
インドの経済状況:足元、景気回復はやや鈍く、物価は落ち着きを示す
トランプ大統領が相互関税を2日に発表し市場は大混乱となった。インド中銀(及びニュージーランド準備銀行)は9日に金融政策決定会合を開催した。相互関税がインド中銀の金融政策に影響したかを定量的には判断するのは困難だが、利下げ幅は以前から予想されていた0.25%にとどめた。マルホトラ総裁が指摘したトランプ関税による世界的な成長減速とインフレ懸念は利下げより、「緩和的」とした金融政策のスタンスに反映されたようだ。
今回の利下げの背景を確認するため、インドの経済状況を振り返る。インドの成長率を24年10-12月期のGDP(国内総生産)で確認すると前年同期比6.2%増と、前期の5.6%増を上回った(図表2参照)。しかし、項目別に見ると成長をけん引したのは政府支出(財政政策)と輸出で持続性に疑問が残る。インド財政に悪化懸念があることや、今年になり輸出の伸びはマイナスとなっているからだ。
過去の高金利政策の影響で設備投資は伸び悩んだ。また、個人消費は10-12月期が前年同期比で6.9%増と前期を上回ったが、市場予想を下回った。インドではヒンドゥー教の暦での新年を祝う「ディワリ」(通常インド最大の祭り)が行われたが、期待されたほど消費は伸びなかった。GDP成長率は数字は回復したが、鈍さが残る内容だった。
インフレは鈍化傾向だ。2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.6%と、1月の4.3%上昇を大幅に下回った(図表3参照)。野菜や卵などの価格が下落し食料品が下押し要因となった。コアCPIは4.1%上昇と上昇傾向だが、金などを含む商品が押し上げ要因であったとインド中銀も声明文で指摘しており、深刻とはとらえていないようだ。
インドの足元の総合CPI、コアCPIは共にインド中銀の物価目標(4%±2%)の範囲に収まっている。そのうえ、インド中銀は今回の会合で25/26年度(25年4月~26年3月)のインフレ見通しを従来の4.2%から4.0%へと引き下げた。食料品価格やエネルギー価格の落ち着きを見込んでのことだ。
インド中銀は今回の会合で25/26年度の成長見通しを6.7%から6.5%に下方修正しており、物価、成長見通しは共に、今回の利下げと整合的だ。
インドは米国に対し報復関税を控え融和姿勢、今後の交渉に注目が必要
ただし、トランプ政権の関税政策はインド中銀にとって不確実要因だ。関税は成長を押し下げる一方で、輸入インフレを押し上げる懸念があるからだ。インドに対する相互関税は26%と高水準で、仮に適用となればインド中銀に成長鈍化などの影響に配慮した複雑な対応が求められよう。もっとも、トランプ政権は相互関税の追加分の発動を90日間延期した。インド中銀は、インド政府による米国との政治的交渉を当面見守る必要がある。
インドの平均関税率はWTO(世界貿易機構)によれば約17%と高水準だ。インドが米国からの輸入に課す関税税率は、米国がインドからの輸入に課す税率を大幅に上回る。そのうえ、米国などからの農産物や医薬品の輸入に対しインドが厳格な検疫を課すという非関税障壁の問題も深刻だ。
インド政府の基本姿勢は、相互関税後に報復措置を表明した中国と異なり、米国との融和路線を選んだようだ。インドのモディ首相は2月にトランプ大統領と会談済みで、年内に貿易協定を締結する方向だ。インドはすでに米国から輸入する二輪車や酒類の関税税率を引き下げるなどの進展もある。今後も、インドは米国からの輸入品に対し幅広く関税の引き下げを検討している。相互関税に加え、鉄鋼・アルミ製品に対する米国の一律的な関税引き上げに対してもインドは、今のところ、報復を控える姿勢だ。トランプ政権の相互関税追加分の90日間延期はインド政府に交渉の時間を生んだという点で追い風だが、さらに米国との今後の交渉の行方に注目したい。
インド中銀は今回の会合で金融政策の姿勢を「緩和的」としたが、これは何ら外的なショックがなければという条件付きだ。天候など国内要因は物価を押し下げる方向と見られるだけに、米国との交渉が順調なら、追加利下げも視野に入る。ただし、当面は米国との交渉を見守る必要がありそうだ。
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