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3月の日銀短観、忍び寄る関税の影響
梅澤 利文
2025/04/01

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概要

3月の日銀短観では大企業製造業の業況判断DIが低下したものの、大企業非製造業DIは市場予想を上回り、中小企業製造業はプラス圏を確保するなどトランプ政権の関税政策の影響が懸念される中、全体に底堅かった。また企業の物価見通しにも日銀の追加利上げを支持するものも見られた。しかし、調査期間から見てトランプ関税懸念が今回の短観に反映されたのか疑問も残り、解釈に注意は必要だ。




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25年3月日銀短観、注目度の高い大企業製造業業況判断指数(DI)は悪化

日銀は4月1日に3月の全国企業短期経済観測調査(短観)を発表した。注目度が高い大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は12と、前回(24年12月調査)の14を小幅下回った(図表1参照)。大企業非製造業の業況判断DIは35と、市場予想、前回調査(共に33)を上回った。

中小企業製造業の業況判断DIは3月が2となり、市場予想のマイナス1、前回の1を上回り、プラス圏を確保した。中小企業非製造業の業況判断DIは3月が16と前月に一致し、市場予想の15を上回った。今回の短観の調査期間は2月26日から3月31日までだった。回収基準日は3月12日で、それまでに7割程度が回収された。

3月日銀短観は比較的底堅かったが、トランプ関税の影響度合いには注意

今回(3月)の短観の調査期間は3月末までであったが、7割程度の回答は12日までに回収されたと伝えられている(図表2参照)。トランプ政権の関税政策などを懸念して日本の株式市場が大幅下落に転じた先週のセンチメントほどには悲観的でない回答が含まれている可能性はありそうだ。また、4月2日以降は今回の短観で示された回答とは異なる見解となる可能性に注意が必要だろう。

図表1に示した景況感は概ね底堅い。非製造業は大企業、中小企業ともに前回調査を上回った。製造業は、大企業が12と前回を下回ったが、中小企業は底堅さを見せた。製造業は2月の鉱工業生産が前月比で2.5%と、伸び率が4ヵ月ぶりにプラスとなったが、基調判断は「一進一退」に据え置かれるなど回復感に乏しい状況だった。

2月の鉱工業生産指数では生産用機械、電子部品などが堅調であった一方、輸送機器、鉄鋼、アルミや銅など非鉄金属が軟調であった。

日銀短観で業況判断を部門別にみると、鉄鋼のDIは-17と低水準で、アルミなどの非鉄金属は前回に比べ悪化した(図表3参照)。鉱工業生産などの動きとある程度整合的なように見える。またこれらの部門はトランプ関税の影響が懸念される部門でもある。なお、トランプ関税では自動車が最も懸念されるが、短観では3月が9と、前回の13から低下した。しかし、仮に自動車関税が長期にわたり課税されるとなると、センチメントのさらなる悪化も想定される。注目すべきは今後の展開だろう。

短観の一部の内容は日銀の利上げを支持するが、不確実性も高い

トランプ関税により不確実性が高まっているが、その影響を受けやすいのが設備投資だ。今回の短観で25年度の設備投資は大企業(全産業)に限れば前年度比3.1%と、ほぼ市場予想通りだった。

しかし、気がかりなのは、昨年3月に発表された24年度の4.0%を下回ったことと、非製造や、大企業だけでなく中小企業も含めた「全規模・全産業」の25年度の設備投資計画がわずか0.1%にとどまった点だ。昨年3月に発表された全規模・全産業の設備投資計画は3.3%だった。

日本企業の設備投資計画は、年度当初は低いが年度末に向け上方修正する傾向がある。25年度は当初時点の水準が低いことから、設備投資の今後の伸びが例年以上に注目されそうだが、今後明らかになるトランプ関税がどの程度設備投資の伸びにどの程度影響するかは不確実だ。

日銀の金融政策に影響すると思われる「企業の物価見通し」は全規模・全産業ベースで1年後、3年後、5年後が前回に比べ0.1%ポイント上昇した。

また、価格転嫁を反映する「販売価格の見通し」も全規模・全産業ベースで1年後、3年後、5年後が前回に比べ上昇している。ただし、大企業・非製造業の販売価格見通しでは3年後、5年後の価格引き上げに消極的な面も見られた。一部企業は価格引き上げに手控え感があるのかもしれない。

企業の事業計画の前提となる25年度の想定為替レートは全規模・全産業で1ドル=147円06銭だった。前回調査で示された24年度の同レートの146円88銭と、そこからやや円安方向となった。ただし、25年度は上期147円17銭、下期は146円95銭となっており、緩やかながら円高進行を想定している。日米金融政策の方向性を考えれば、ある程度の円高を想定する必要もあるだろう。

今回の短観には、日銀の利上げ判断をある程度支持する内容も見られた。物価見通しなどがその例だ。(筆者にとり)意外だったのは資金繰り判断に大きな変化がなかったことだ。1月の金融政策決定会合で利上げした後の短観で、借入金利水準は「上昇した」の割合が確かに増えたが、資金繰りは意外と「楽である」との回答も多かった。

短観における企業の物価見通しや、資金繰りの余裕は、日銀に利上げの選択肢を残す内容かもしれない。しかし、関税による不確実性への懸念は当面利上げに待ったをかける可能性が高いようで、次の利上げは7月会合以降ではないだろうか。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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