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- 3月米CPIのインフレ鈍化と関税の今後の影響
米労働省が発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、食品とエネルギーを除いたコアCPIが市場予想を下回るなど、全般的に物価の鈍化が示された。特にエネルギーや中古車、宿泊費、航空運賃の価格が下落し、インフレ圧力が弱まった。ただし、関税の影響はほぼ見られなかった。トランプ政権は追加関税について対象国とディール(取引)をする姿勢で、その影響も含め今後の物価動向に注視が必要だ。
3月の米消費者物価指数は市場予想、前月を下回り物価の鈍化を示唆
米労働省が4月10日に発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、食品とエネルギーを除いたコアCPIが前月比0.1%上昇と、市場予想の0.3%上昇、2月の0.2%上昇を下回った(図表1参照)。前年同月比は2.8%上昇と、市場予想の3.0%上昇、2月の3.1%上昇を下回った。
総合CPIは前月比0.1%低下と、市場予想の0.1%上昇、2月の0.2%上昇を下回った。前年同月比も2.4%上昇と、市場予想の2.5%上昇、2月の2.8%上昇を下回った。
3月のCPIはコア、総合共に市場予想、前月を下回り物価の鈍化が示された。ただし、10日の米国債市場では「長期」国債利回りが上昇した。
3月の米CPIは関税の影響を反映したとは言えないようだ
3月の米CPIで物価が鈍化した主な品目をみると、エネルギーや中古車、宿泊費、航空運賃などが挙げられる。ここ数年、インフレ押し上げ要因となってきた自動車保険も鈍化した。宿泊費や航空運賃などの価格下落は景気の先行きに対する懸念を反映した可能性もある。一方、関税の影響による「将来」のインフレ圧力を示す証拠は今回のCPIには見出しにくいが、懸念は強く残る。
今回のCPIで前月比の伸びは、20年5月以来、ほぼ5年ぶりにマイナスとなった。前月比の伸びを、エネルギー、食品、財、及びサービスの4項目に分けて寄与度をみると(図表2参照)、エネルギーはガソリン価格の下落などを背景にマイナス寄与となった。
変動の大きいエネルギーと異なり、サービスは、過去においてインフレ押し上げに寄与してきたが、3月の寄与は縮小した。個別にサービスの品目をみると、押し下げ要因となったのはホテルなどの宿泊費、自動車保険、自動車リース、航空運賃などであった。宿泊費や航空運賃の下落は景気悪化を反映しているのか、それとも一時的なのかを見守る必要はあるが、サービスによる物価上昇圧力は鈍っているようだ。
反対に食品の寄与は3月に拡大した。政治問題ともなった卵価格は3月が前月比5.9%上昇と依然上昇しているものの、前月の10.4%を下回るなど上昇ペースは鈍っている。牛肉や豚肉などの価格は上昇したが、野菜・果物は下落するなど品目によるばらつきがあった。食品全体の伸びは3月が0.4%上昇で、通常の変動の範囲内とみられる。
関税の影響を反映するとみられる財には最も注目しているが、0.1%の低下だった。中古車や医薬品などが下落した。衣類、玩具、家電など中国からの輸入品が多い品目を見ると、衣類は0.4%上昇したが、玩具や家電の価格は低下し、関税の影響は今回のCPIにほとんど示されなかったようだ。
関税の物価に対する影響は様々な要因があり、今後の展開を待つ段階
3月の米CPIに関税の影響はほぼ見られなかったが、ここからは今後のインフレについて考える。
まず、関税が引き上げられてから(消費者段階の)物価動向を過去の例を参考に振り返る。ここでは洗濯機を取り上げる。トランプ大統領は第1次政権の時に、2018年1月から外国から輸入される洗濯機の関税を段階的に引き上げた。関税を価格転嫁する形で洗濯機の価格上昇が春から夏に見られた。関税発動後、すぐに価格が上がらず、数ヵ月経って価格転嫁が見られたわけだ。
なお、興味深いのは関税対象でない乾燥機の価格も引き上げられたことだ。洗濯機とセットで買われることから、洗濯機の値上げを抑え、その分乾燥機に上乗せしたケースが見られた。関税対象商品だけでなく、波及効果も見る必要がありそうだ。
次に、トランプ1次政権で関税が課せられた別の製品であるテレビについて見ると、関税発動後の価格に大きな変化がなかった。理由は他国の製品に置き換わった(輸出経路の変更)などが考えられる。トランプ大統領は現在の第2次政権では世界全体に一律関税を導入しているが、このような経験を教訓としたのかもしれない。
今回の関税の物価への影響を見てみる。今回は一律10%であるうえ、(90日間の停止期間中だが)、国によって追加関税もあるなど、前回との違いもあり、物価への影響は複雑だ。ボストン連銀のコリンズ総裁の講演を参照すると、輸入品に対する実効関税率が10%を超えるとインフレ率(個人消費支出(PCE)コア物価指数)は累計で0.7%~1.2%ポイント高まるとのことだ。2月のコアPCE物価指数は前年同月比で2.8%上昇しており、関税の効果を考慮すると3%を十分上回る水準で推移することが想定される。なお、ボストン連銀の試算では輸入品に対する関税の直接効果に加え、輸入された中間財が国内生産に使用された場合の影響も考慮している。トランプ大統領の不規則発言で関税率の変更が多いため、直接効果のみで関税の物価に対する影響を試算することも多いが、本来は波及効果も考慮して、試算すべきだろう。
トランプ米大統領は報復措置を取らない国・地域に対する「相互関税」の上乗せ分については適用を90日間停止するとしている。洗濯機などの例にあるように、関税の物価に対する影響は考慮すべき要因が多い。今後の米国との対話(ディール)の内容次第で物価への影響も変わってくるであろう。そうなると、米連邦準備制度理事会(FRB)は関税についてもう少し内容が分かるまでは、利下げに慎重な姿勢となる可能性もあろう。
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