- Article Title
- トランプ関税、噂で売って、事実でまた売る展開
トランプ大統領は、米国の全輸入相手国に対して一律10%の相互関税を導入し、対米貿易黒字が大きい国にはさらに高い税率を適用すると発表した。発表された内容は事前の想定より厳しいものであったため世界中で幅広く株価が下落するなど様々な市場に影響を及ぼした。日本への関税は24%に設定され、トランプ政権の貿易政策の厳しさが浮き彫りになった。今後の対応への困難さが想定される。
米トランプ大統領、相互関税を発表、想定を超える厳しさ
トランプ氏は4月2日(日本時間3日午前5時)に米ホワイトハウスの中庭「ローズガーデン」で演説し、世界各国からの輸入品に対して「相互関税」をかけることを公表し、また、相互関税を実施するための大統領令に署名した。
相互関税は、世界一律に10%の関税を4月5日から適用するものだが、対米貿易黒字の大きい国に対しては相互関税を4月9日から適用する予定だ。なお、対米貿易黒字の大きい国の相互関税率(換算関税率、図表1参照)は各国の関税率及び非関税障壁、為替操作に応じて算出している。
想定を上回る相互関税の内容を確認したことでショックは世界中に波及
相場の格言として「噂で買って事実で売る」(噂のうちに買っておいて事実が確定したら売れ)がよく使われる。トランプ関税(4月2日の相互関税)の発表内容を確認するとさらに売りが加速する展開となった(図表2参照)。事前の想定よりも相互関税の発表内容が厳しかったことを物語っている。
想定より厳しかったと思われる点を整理する。
まず驚かされたのは貿易黒字が大きい国に対する相互関税の税率の高さとカバレッジの広さだ。4月2日の発表前から、相互関税の景気や物価への影響を懸念して株価は下落基調であったが、一律に課税する相互関税は選挙公約で述べていた20%は論外で10%がせいぜいとの見方が報道されていたように思う。米国への輸出で特に黒字が大きい国に絞るとの期待もあった。しかし、実際にトランプ大統領が示したのは、全輸出国に基本税率10%を課すとともに、対米貿易黒字の大きい約60カ国・地域を対象に上乗せ税率を適用するというもので想定より厳しかった。
例えば日本への税率は図表1にあるように24%に設定された。内訳は幅広くどの国にも課される基本税率の10%に加え、国別に非関税障壁などを勘案して算出される追加の14%の合計で24%という構造となっている。日本の最恵国待遇における平均関税率は3.7%、米国は3.3%だから低い関税にとどまるだろうという観測は打ち砕かれた。前日に続き4月4日の日本株式市場も暴落が続いたことにショックの大きさがうかがえる。
なお、トランプ大統領は図表1の最右列の「相互関税」を、貿易黒字国の大きい国への関税として4月9日より適用すると発表した。同時に「換算関税率」(筆者の訳語)も示された。米通商代表部(USTR)の説明資料などによると、米国の貿易赤字をバランスさせる国・地域ごとの関税率が「換算関税率」に相当するようだが、実際の相互関税はその半分である。日本の相互関税税率は24%だが、「換算関税率」は46%だ。ほかの国を見ても、相互関税の税率は「換算関税率」の半分程度となっている。トランプ大統領は「これは完全に相互というわけでなく、寛大な相互だ」と述べているのは半分にしてあげている、というニュアンスなのかもしれない。ネガティブに解釈すれば、今後の交渉次第ではさらなる引き上げもありえるということかもしれない。懸念のネタは尽きない。
日本の「換算関税率」は46%と高いが、平均関税率から判断して日本の非関税障壁が高いと米国が考えていることになる。しかし、報道なども踏まえると相対的な貿易赤字の大きさが基準となっている印象もある。米国の算出根拠についての説明は不十分と思われる。相互関税の発表はあったが霧が晴れたわけではない。むしろ不確実性が増えた面もありそうだ。これまで米国報道官が述べてきた日本の関税障壁には日本が米国からのコメ輸入に700%の関税をかけているといった真偽が疑わしいものもある。これをベースに交渉するのは難儀である点も厳しさを想起させる。
一律相互関税に加え、抜け道を塞ぐ手段も発表された
貿易黒字国の相互関税が注目されがちだが、輸入相手国を対象に10%の関税を課す一律関税も、厳しい内容だ。過去の通商政策では迂回輸出などで(中国のような)貿易黒字国への関税政策が効果を表さなかったことから今回、このような関税を導入したのではないだろうか。
なお、これとは別に、トランプ大統領は少額(800ドル以下)の個人輸入について関税や入管手続きを免除する「デミニミス・ルール」を5月2日に終了することも発表した。米国当局から過去の貿易政策で中国からの輸入が減らない要因の一つとして「デミニミス・ルール」の存在を指摘するペーパーが発表されている。 「デミニミス・ルール」の終了はトランプ政権の本気度が伝わる一方で、想定以上の厳しさを物語る面もある。
トランプ関税の目指すものは4月2日の発表からは特定しづらいが、貿易赤字の解消、米国製造業の復活による国家安全保障などの回復を目指しているのだろう。相互関税の根拠法がこれまで安全保障に使われてきた国際緊急経済権限法(IEEPA)だからという面はあるにせよ、米国製品を増やし安全保障を確保したいのかもしれない。しかし、その代償はあまりに大きい。世界の平均関税率は20%を超える可能性があり、成長率は低下、インフレ率は上昇する恐れがある。何よりも、相互関税を貫けば、戦後の繁栄を下支えした自由貿易体制は事実上崩壊する恐れもある。本当にその覚悟はあるのだろうか。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。