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- ECB、市場予想通りの利下げと緩和余地の準備
欧州中央銀行(ECB)は4月の政策理事会で政策金利を0.25%引き下げて2.25%とした。トランプ関税を前に、インフレより景気悪化を重視する姿勢を示した。ラガルド総裁は、米国の関税政策が成長見通しを悪化させる一方で、インフレについては上昇、低下双方の要因を指摘した。声明文から、金融政策は「実質的に引き締め的でなくなりつつある」との文言を削除した。緩和余地が広がる可能性も考えられる。
ECBは市場予想通り0.25%幅で利下げ、関税による景気悪化を懸念
欧州中央銀行(ECB)は4月17日、市場予想通り政策金利(中銀預金ファシリティ)を0.25%引き下げて2.25%とすることを決めた(図表1参照)。トランプ米政権が「相互関税」を発動してから初の理事会で、インフレ懸念よりも、景気悪化への対応を選択したと判断できよう。
ECBのラガルド総裁は会見で今回の利下げは全会一致であると述べた。利下げの理由として、インフレ鈍化は進行中であるとの認識を示す一方で、米国の関税政策により成長見通しが悪化しているためなどと指摘した。なお、声明文から「金融政策は実質的に景気抑制的でなくなりつつある」という文言が削除されたが、この点はややハト派(金融緩和を選好)的と思われる。
ユーロ圏のインフレ率は鈍化傾向で、物価目標に近づく動き
市場の一部を除き、ほぼ全員が予想した通りの利下げであった。ただし、発表後ユーロ圏の国債利回りは低下した。低下幅はドイツ2年国債利回りでは利下げ0.5回分(利下げ1回を0.25%とした場合)程度であったことから、市場はECBの発表内容をハト派的と受け止めたことがうかがえる。
その背景は①トランプ関税を受けたユーロ圏経済に対するECBの見通しと、②金融政策の今後の方針には利下げバイアスがあるとの受け止め、が挙げられる。まず、経済見通しから振り返ろう。
ラガルド総裁は会見で、ユーロ圏のインフレ率は鈍化傾向で(図表2参照)、今後も物価目標に向けた動きが続くと見込みであると指摘した。ユーロ圏の3月の消費者物価指数(CPI、EU基準)は前年同月比で2.2%上昇と物価目標に近づきつつある。そのうえ、構成項目をエネルギー、食品、財、サービスに分類すると、「エネルギー」は1.0%下落と下押し要因だ。関税の影響を受けやすいモノの値段である「財」は0.6%上昇で落ち着ているとラガルド総裁は指摘した。
さらにインフレ鈍化の持続性を浮かび上がらせたのは「サービス」だ。3.5%上昇と依然水準は高いが、4%前後で横ばいの推移が続いてきた状況からようやく鈍化がみられた。「サービス」の物価動向を大きく左右する賃金に鈍化の兆しがみられ、今後も鈍化が見込まれる。ECBが参照するユーロ圏の賃金の先行指数は先行きの鈍化を示唆しているからだ。また、ECBがコンタクトしている企業の賃金計画に過去のような過熱感はないようだ。
なお、筆者が注目したのはトランプ関税の影響を踏まえたインフレ見通しのネットの影響がわかるまでに時間が必要と指摘した点だ。関税は輸入物価の押し上げ要因だが、一方で、関税による成長の押し下げ、ユーロ高、エネルギー価格の下落、(おそらく中国を念頭に)過剰生産の国によるデフレの輸出などが下押し要因となる可能性を指摘した。双方向の物価への影響が判明するのに時間がかかるとして、不確実だから政策金利を据え置くという決定をしなかった点はハト派的と見ている。
「金融政策は実質的に景気抑制的でなくなりつつある」、は削除された
ユーロ圏の経済成長は関税による輸出の停滞や、不確実性に伴う投資や消費者マインドの悪化などが下押し要因となる懸念を指摘している。また、株式市場の下落や社債スプレッドの拡大など金融市場の混乱は実質的に金融引き締め効果を生み出す恐れがあることも指摘している。経済成長に関するトーンもややハト派的だった。
次に、今回の声明文で「金融政策は実質的に景気抑制的でなくなりつつある」という文言が削除されたのはハト派的と見られるが、この背景として、景気抑制的を中立金利との比較という観点から振り返る。ラガルド総裁は中立金利(景気を刺激も冷やしもしない名目ベースの金利)はショックがない世界では機能するが、トランプ関税で混乱する現在のような状況で中立金利を参照することに疑問を呈した。ECBは先月、中立金利の最新の推定値として1.75%~2.25%を示唆した。一般に中立金利より政策金利が上なら金融引き締め的、反対に下なら緩和的といった使い方がされている。
ユーロ圏の中立金利を仮に先の推定値の範囲の中心値である2%とすると、今回の利下げで政策金利は2.25%となったので、単純化すれば利下げ余地はあと1回と見られる。
一見、便利な使い方だが、実務的に問題もある。中立金利は観測不可能で、推定するしかないが推定方法が定まっていないという点だ。
しかし、今回ラガルド総裁が指摘したのは、別の問題で、そもそも関税のようなショックがあるときの中立金利の取り扱いに言及している。中立金利がショックのある世界で役に立たないのではというのは、ラガルド総裁自身の考えとして述べた節もあり、理事会全体で合意されているのかなどについては、今後の議論を待ちたいところだ。筆者はECBが中立金利の推定値を近い将来に変更する可能性を想定していたが、「ショックのある世界では意味がない」という考え方が表明されるとは想定していなかった。なお、中立金利に対するこの考え方が金融政策に及ぼす影響としては、必要であれば(過去の)中立金利の水準にとらわれず利下げが可能になるという点でハト派的と見られる。
ただし、重要なのは、当面はECBが利下げ姿勢としても、いつまでも利下げと決め打ちすべきではないということだ。トランプ関税でショックのある世界にいると見られるECBは、金融政策を機動的に運営する必要性を準備したとも考えられる。データ(状況)次第では柔軟に方針を変えうる機敏性をもたせたと考えた方がいいのかもしれない。
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