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- メキシコ中銀、4月2日を前に、市場予想通り利下げ
メキシコ中央銀行は、市場予想通り、政策金利を0.50%引き下げ9.00%にすることを発表した。利下げは6会合連続で、インフレ鈍化や景気減速を背景としている。インフレ率は目標範囲内に収まるうえ、今後の見通しとしてさらなる鈍化を見込んでいる。景気は高金利が下押し要因であるうえ、米国の関税政策が経済に影響を与える懸念もある。足元のメキシコ市場は比較的落ち着いているが安心には程遠い。
メキシコ中銀、全会一致で政策金利を0.50%引き下げ
メキシコ銀行(中央銀行)は3月27日に開催した金融政策決定会合で、市場予想通り、政策金利を0.50%引き下げて9.00%にすると発表した(図表1参照)。利下げは6会合連続で、昨年後半の4会合における利下げ幅は0.25%だったが、今年行われた2会合での利下げ幅は0.50%としている。
今回の会合では5人の理事による全会一致で利下げを決めた。前回の会合では4対1(副総裁が0.25%の利下げを支持)であり、今回の会合はハト派(金融緩和を選好)度合いがやや強まったように見られる。メキシコ中銀は声明文で、米国の関税政策による不確実性を指摘しつつ、インフレ鈍化の見通しが利下げの背景と述べている。
メキシコのインフレ見通しと景気動向は利下げを支持する要因
今回の会合は全会一致であったことに加え、今後の金融政策の方針を示唆するフォワードガイダンスで「今後も同規模の調整を続ける」と次回の会合(5月)も同程度の利下げを続ける考えを維持した。このようなメキシコ中銀のハト派姿勢を支えたのは、インフレ鈍化見通しと、景気減速への備えであると考えられる。
メキシコのインフレ動向を消費者物価指数(CPI)で確認する。3月7日に発表された2月のCPIは前年同月比で3.77%上昇だった(図表2参照)。メキシコ中銀の物価目標である3%(±1%)の中心値(3%)は上回るが、範囲内には収まっている。1月の3.59%を上回っているのは肉類の高騰など特殊要因が背景で、インフレは鈍化傾向と見られよう。
より注目すべきはサービスの動きで、2月は伸びが4.64%となった。これまでインフレ鈍化の進行を遅らせる要因であったが、減速傾向は明確となりつつあるようだ。なお、メキシコは3月24日に3月前半のCPIが発表したが、その数字は4.25%とサービス価格のさらなる鈍化が確認された。
メキシコ中銀のインフレ見通しでは総合CPIは25年10-12月期で3.3%、3.0%には26年7-9月期に達すると見込み、前回会合と変わらなかった。関税政策によるインフレ押し上げの懸念はあるが、今のところメキシコへの関税が発動される一方で適用除外も発表され影響は見えにくい。関税の影響を受けやすい財のCPIを見ると、前倒し的な引き上げは限定的な水準にとどまっているようだ。
今回の利下げの背景として、ここまで述べてきたインフレ動向とともに、政策金利が引き締め領域にあることを指摘している。要するに景気減速も利下げの背景ということだろう。メキシコのGDP(国内総生産)成長率を見ると、24年10-12月期は前年同期比で0.5%増と、前期、市場予想(共に0.6%増)を下回り、成長率の鈍化傾向がうかがえる(図表3参照)。短期的な変動を示す前期比で見ると10-12月期は0.6%減とマイナス圏に落ち込んだ。高金利に加え、国外労働者の移民送金の伸び悩みなどがメキシコの昨年10-12月期の景気下押し要因と見ている。
米国の通商政策の次を見守る段階だが、関税の影響は過小評価できない
今後のメキシコの景気認識について、声明文を見ると、下振れリスクへの懸念を示唆している。理由は言うまでもなく米国の通商政策だ。先行きを示唆する傾向がある足元の景況感指数はおおむね悪化傾向だ。メキシコ経済を支えると考えられていた「ニアショアリング」(米国の近くに生産拠点を置く)への期待は関税政策の影響で後退した。
もっとも、図表1に戻っていただき、通貨ペソの最近の動きを見ると意外と底堅く、年初来対ドルでペソ高傾向だ。メキシコ株式市場も年初来では上昇傾向に転じている。
この背景の一つは関税政策の先延ばしで発動が一部にとどまっているためであろう。トランプ米大統領は2月3日、メキシコ(とカナダ)に対する関税の発動を1ヵ月見送った。3月4日にはメキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を発動したが、6日にはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)準拠の製品について4月2日まで適用除外とするなど発動と見送りを繰り返している。また、メキシコのシェインバウム大統領は、トランプ大統領に対し皮肉めいた発言はするものの、報復関税に慎重な姿勢を示していることも好材料だろう。楽観シナリオなら、交渉により関税が収まるという希望的観測も考えられなくはない。
しかし、現実的には関税発動を基本シナリオに据え置く必要があるだろう。国際通貨基金(IMF)は27日の記者会見で、関税が続けばカナダとメキシコには「著しい悪影響」を受ける可能性が高いと指摘した。関税の影響は4月の「世界経済見通し」に反映させる模様だ。別の国際機関として経済協力開発機構(OECD)は3月の予測で、メキシコの25年の成長率はマイナス1.3%と、前回(24年12月)の1.2%増から大幅に下方修正した。
今後の関税政策次第だが、足元のメキシコ市場の落ち着きは嵐の前の静けさの可能性もある。メキシコ中銀は米通商政策から目が離せないだろう。
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