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- 原油価格の行方
原油価格は急落の後にリバウンド局面を迎えている。石油の需要はその性質上、世界経済に概ね連動してきた。新型コロナウイルスによる実需の急減が、2月以降の価格急落の背景であることは間違いないだろう。一方、供給面での構造的な変化は、世界最大の石油消費国である米国が、シェール革命を経て世界最大の産油国になったことだ。結果として、国際的な石油の供給力が大きく強化された。また、一つの国が有数の石油供給者としての立場と巨大な消費者としての立場を合わせ持ったことにより、米国の石油に関する政策は非常に分かり難くなっている。さらに、中東から原油を購入する必要がなくなったことで、米国は中東情勢への関心を失った印象となり、ペルシャ湾周辺の地域において実力ある仲裁者の役割を果たす国が見当たらなくなった。今後は米欧主要国で都市封鎖が段階的に解除され、石油需要は上向くだろう。それに連れて石油価格は戻りを試すと見られるが、米国のシェール石油が潜在的な供給余力である以上、天井は高くないのではないか。
石油市況を考える上でのポイントは、まず価格の決定要因を把握することだ。これには、循環的な要因と構造的な要因がある。また、米国は、石油市場及び世界最大の石油生産地であるペルシャ湾周辺に対し、歴史的に大きな影響力を行使してきた。従って、トランプ政権のスタンスも、石油市況には重要な意味を持つのではないか。
コモディティ市場を代表するのは、伝統的に石油と金だろう。伝統的にこの二つの商品の価格は連動してきたが、このところは大きな乖離が生じている。金は、新型コロナウイルス下での財政・金融政策の肥大化が将来的なインフレをもたらすリスク、そして石油は新型コロナウイルスによる足下の景気失速をより強く反映しているからだろう。
性質上当然のことではあるが、循環的に見ると、石油需要は世界経済の実質成長率に連動する傾向が強い。今年2月に入って石油市況が崩れた背景は、新型コロナウイルスが中国から米欧に拡大したことで、世界的な経済の失速の可能性を織り込んだ動きだったと言えよう。だとすれば、今後の価格は、景気底入れの時期、回復のスピードに依存しているはずだ。
石油市況に起こった劇的な変化は、世界最大の石油消費国・輸入国であった米国が、シェール革命によりこの10年間で世界最大の産油国になったことだ。その結果、リーマンショック後に多くの国・地域の成長率が鈍化したこともあり、石油は供給が構造的に余り気味になっている。ここに短期的な需要減が重なった結果、2月以降の急落になったのだろう。
世界最大の石油輸入国であった米国が、世界最大の産油国になり、既に米国産原油の輸出も解禁された。歴代の米国大統領は、産油地であるペルシャ湾の安定を極めて重視してきたが、トランプ政権はむしろ関心を失った印象だ。また、消費国であり産油国でもあるため、米国の石油政策は、供給者と需要者の狭間で明確な目標を失い、漂流しつつあるのではないか。
米国で稼働している石油リグは、昨年末の677基から、5月8日の時点では292基になった。石油価格の大幅な下落により、採算性の低い小規模なリグを中心に生産休止に追い込まれた模様だ。ただし、シェールオイルのリグの場合、短期間に生産を再開できる柔軟性がある。従って、石油価格が上昇すれば、リグの稼働基数が増加する可能性が強い。
足下、米国の産油量は日量1,160万blであり、ピークだった2月下旬から150万bl減少した。率にして11.5%で、OPECプラスが決めた23%の減産率に比べて半分に過ぎない。トランプ大統領は、サウジアラビア、ロシアに減産を求めたものの、自国の事業者の生産量については「市場で決まる」としている。米国の供給余力は、石油価格の重石になるのではないか。
4月20日、WTI原油先物5月限が取引最終日にマイナス40ドルになった。期日には現物決済が行われるため、受け渡し場所であるクッシングの貯蔵施設の空き容量が懸念されたからだ。もっとも、冷静に見れば、貯蔵タンクが直ぐに溢れることはないだろう。また、米国全体だと、貯蔵量はキャパシティーの61.6%、まだ十分に余裕があると言えそうだ。
当面の原油価格を考える上では、世界経済と米国の生産状況が極めて重要だろう。世界の景気は、先進国の経済活動再開で回復への期待が高まっているものの、当面、力強さには全く欠けると見られる。また、石油の需給が締まって価格が上昇すれば、米国の産油量が増加するだろう。これらを考えると、石油価格の上昇はあくまでリバウンドに留まるのではないか。国際金融市場においては、産油国の財政的苦境によりオイルマネーの縮小に注意が必要だ。
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