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再び脚光を浴びる地球温暖化問題
市川 眞一
2020/09/01

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概要

地球温暖化が進んでいる模様だ。東京では、この8月、熱中症による死者が新型コロナを大きく上回り、中国、インドなどでは水害が著しく、大型ハリケーンのローラが米国南部を襲った。こうした自然災害は、地表や海水面の温度上昇と並行して頻度を増しており、温暖化との因果関係を疑わざるを得ない。また、地球温暖化の要因として、『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』は、「第5次報告書」において、人類の活動による温室効果ガス排出が引き起こしている可能性を「95%以上」とした。2015年冬にパリで開催された第21回気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)では、京都議定書の後継となる『パリ協定』が採択されたものの、先進国と新興国・途上国間の対立は激しく、温暖化の抑止に実効性のある対策が進んだとは言い切れない。ただし、大きな変化は、企業経営、金融市場において持続可能性が重視されつつあり、それがESGとの概念を生んだことである。また、温暖化に関心が低いと言われ、パリ協定を離脱した米国でも、ジョー・バイデン前副大統領が大統領選挙の公約で積極的な対策を打ち出しており、この問題に対する世界の関心が再び大きく高まる可能性が台頭している。



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地球温暖化問題は、これまでも度々マーケットのテーマになってきた。ただし、統計上、有効な手が打たれたとは言えない。世界の気温は傾向として上昇を続け、それに伴って自然災害が頻発している。ただし、企業経営や投資において持続可能性が重視されつつあるのは近年の大きな変化だ。また、米国大統領選挙でバイデン氏が積極的な温暖化抑止策を公約している点も注目される。

 

 

今年8月、東京都における熱中症を主因とする死者数は26日現在で170人を超え、シーズンとして過去最多になった。これは、新型コロナウイルスの24人を大きく上回る数字だ。高齢者がエアコンの使用を控えたたことで、熱中症が重症化するケースが多いと言われる。ただし、根底には気温の上昇があると考えるべきだろう。

 

 

気象庁によれば、東京中心部における8月の平均気温は、100年間に2℃のペースで上昇しつつある。もちろん、大型ビルの林立、アスファルトによる舗装、そしてエアコンの使用により、ヒートアイランド現象が起こっているのだろう。ただし、平均気温の上昇は日本でも都市部だけで起こっている事象ではない。地球温暖化も要因の可能性が強い。

 

 

英オックスフォード大学の研究者らによるプロジェクト、”Our World in Data”の集計によれば、世界の自然災害は長期的な増加傾向をたどっている。特に、先進国で高度成長が一巡した1980年代に入って激増した。そのうち、最もウェートが大きいのは洪水、異常気象であり、地球温暖化との因果関係が強く疑われる事象に他ならない。

 

 

自然災害の具体例として、米国では2012〜17年にかけカリフォルニア州が「千年に1度」と言われる大旱魃に襲われた。それ以外にも大小の旱魃があり、野火による焼失面積は急速に増加している。また、オーストラリアにおいても、2019〜20年にかけ大規模な山火事が発生、大きな被害が生じたことは記憶に新しい。

 

 

アメリカ海洋大気庁によれば、世界の地表及び海水面上の大気の平均気温は1970年代から急速に上昇している。その幅は、わずか50年程度の間に1℃に達した。この間に世界各地で洪水、異常気象が頻発してきたことを考えると、地球温暖化と自然災害の間には何らかの因果関係があると考える必要があるだろう。

 

 

1880年以降、各年の世界の気温と温室効果ガス排出量(二酸化炭素換算)の関係を見ると、右方上がりの一次回帰直線となり、決定係数は0.86(R2)と極めて高い。もちろん、地球45億年の歴史を考えれば一瞬に過ぎないとは言え、科学者の集団であるIPCCが「第5次報告書」で指摘するように、温室効果ガスの排出増は地球温暖化の要因であるようだ。

 

 

英国BPによれば、2019年において最も温室効果ガス排出量の多かった国は中国であり、二酸化炭素換算で98億3千万トン、2番目は米国の49億6千万トンだった。この2ヶ国で世界の排出量の43.3%だ。当然、米中の努力で温暖化問題は大きく緩和可能との見方があっても不思議ではない。しかしながら、既に経済が成熟化した先進国と、これから発展しようとする新興国・途上国の間で見解の相違は極めて大きいのが実情だ。

 

 

経済規模が大きくなれば、温室効果ガスの排出量も大きくなるのは当然だ。そこで、GDP1単位を生み出す際に排出する温室効果ガスの量、即ち排出量原単位での比較を行うことは意味があるだろう。主要先進国の場合、過去30年間、排出量原単位は減少を続けてきた。G7に限れば、国毎の差異は極めて小さな範囲に収まりつつある。

 

 

排出量原単位の国際比較を見る限りでは、主要新興国であるインド、ロシア、中国のエネルギー効率が極めて悪いと言える。トランプ米大統領は、それを理由の1つしてパリ協定から離脱した。ただし、先に経済を成熟化させた先進国としては、新興国・途上国の温暖化抑止策を支援すると同時に、自らも排出量削減を進めなければならないだろう。

 

 

11月の大統領選挙では、バイデン氏が極めて積極的な温暖化抑止策を打ち出している。特に、2050年までのゼロエミッション化、EV普及の促進などは、従来の米国の姿勢から数歩踏み込んだ内容だ。背景には、パリ条約を離脱したトランプ大統領との差別化に加え、企業経営や市場のなかでESG、即ち持続可能性を重視する動きが加速しているからではないか。

 

 

世界では温室効果ガスの排出量が拡大、温暖化が進むと同時に、自然災害が頻発しつつある。この3者の因果関係を否定するのは難しいだろう。もっとも、温暖化抑止策の実施に当たっては、先進国と途上国・新興国の対立は極めて根深い。そうしたなか、実効性ある手を打つには、先進国側が途上国・新興国の対策を支援しつつ、自らも温室効果ガスの排出量をさらに削減する必要があるだろう。一方、米国の大統領選挙へ向け、バイデン氏が積極的な温暖化抑止策を打ち出したのは、ESGに対する社会・市場の関心の高まりを反映したと考えられる。温暖化抑止は、マーケットの重要なテーマとしても再び脚光を浴びる可能性がありそうだ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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