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- 「菅政権」 何をみておくべきか?
9月16日、臨時国会が召集され、菅義偉自民党総裁が第99代内閣総理大臣に指名される見込みだ。「菅首相」が直面する最初の重要な判断は、衆議院の解散時期ではないか。早期に総選挙を実施し、政権基盤の確立を図る可能性は高いと見られる。市場が注目する財政、金融政策に関しては、当面、安倍政権の姿勢を概ね踏襲するだろう。新型コロナ禍の影響が続くなか、いずれも現時点での変更は経済・市場へのインパクトが大きくなりかねない。また、内閣総理大臣の交代に伴い金融政策が変更された場合、日銀の独立性に疑念が生じるリスクがある。一方、「菅首相」は、独自色を出す意味もあり、デジタル庁の創設の他、携帯電話の料金引き下げ、地銀再編など、成果の出やすいミクロ政策の積み重ねを図るだろう。問題は外交だ。各国首脳と良好な関係を築いてきた安倍首相と異なり、「菅首相」は外交経験がほとんどなく、特に首脳外交における手腕は未知数である。通商交渉などにおいて、日本に厳しい要求が示される可能性があり、その際の「菅首相」の対応が注目される。首脳外交の失敗は、「菅内閣」の支持率に影響し、政権基盤に関わる問題になる可能性があるのではないか。
自民党総裁選に圧勝した菅新総裁だが、派閥に所属しておらず、党内基盤は必ずしも強くない。足下を固める上で、衆議院の解散・総選挙のタイミングが重要となろう。経済政策面では、マクロ政策においてアベノミクスの継承を打ち出す一方、ミクロ政策では独自色を滲ませている。また、経験がないと言われる外交にどのように取り組むのか、この点も経済・市場へインパクトを与える可能性が否定できない。
菅総裁は、国会議員秘書、市議会議員を経て、衆議院議員になった。直近10人の自民党政権の内閣総理大臣のなかでは、親族に政治家がいないのは菅氏と海部俊樹元首相のみだ。かつては平成研(現竹下派)、宏池会(現岸田派)に属したが、無派閥の自民党総裁は結党後初めてである。それだけに、菅氏を支える二階俊博幹事長の影響力が強まるだろう。
菅氏の自民党総裁としての任期は2021年9月末までだ。衆議院の任期満了がその1ヶ月後であるため、「菅首相」は1年以内に解散の決断をしなければならないと考えられる。総選挙での勝利は、国民の「菅首相」への信認を意味し、政権基盤を固める鍵となるはずだ。政治日程から見ると、蓋然性の高い総選挙のタイミングは、今年10~12月、もしくは東京都議会議員選挙が行われる来年6月と言えよう。
総選挙における勝利の定義を過半数の議席獲得とする場合、自民党結党以来21回の総選挙のうち、前回から3年以内に行われた10回において、解散時与党は9勝1敗だった。一方、3年超で行われた11回では解散時与党の3勝8敗だ。前回の総選挙は2017年10月であり、来月で3年が経過する。「菅首相」は、早期解散の可能性を探っているだろう。
過去10代の内閣の支持率を見ると、8代において発足1年以内に20%台へ低下している。そこから支持率を上げたのは小渕恵三首相のみで、それ以外の7人は就任から1年半以内に退陣を余儀なくされた。最初の1年間に50%以上の支持率を維持した小泉純一郎、安倍晋三(2回目)両首相は長期政権を維持している。「菅首相」にとりスタートダッシュは極めて重要だ。
新型コロナ禍の下、大幅に拡大した財政・金融政策を変更することは、政治的にも経済的にもリスクが大きい。また、首相交代によって金融政策が変更された場合、日銀の独立性に疑念が生じるだろう。従って、マクロ政策は身動きがとれそうにない。「菅首相」が独自色を出すとすれば、ミクロ政策になるのではないか。「菅首相」の政治姿勢は、国家観を重視した安倍首相の「理念型」、大きな課題を掲げた小泉首相の「劇場型」と比べ、「小劇場型」と言えよう。
2016年以降の4年8ヶ月間(2020年は8月末まで)、年毎に見てMSCIの対世界指数に対し日本株がアウトパフォームしたのは2017年だけだ。アベノミクスの成長戦略に対する期待が剥げ、財政・金融政策依存が明らかになったからだろう。このマクロ政策面で大胆な改革を回避する姿勢については、「菅首相」は安倍政権の路線を継承するのではないか。
アベノミクスは、当初、雇用の流動化、米英並の開・廃業率達成による産業の新陳代謝などにより、グローバルスタンダードのROEを目指すとした。しかし、いずれも達成されていない。TOPIXのROEは1桁台に留まり、S&P500を大きく下回る状況を脱せなかった。大胆なマクロ政策による経済構造の改革がなければ、継続的な日本株のアウトパフォームは難しいだろう。
安倍首相は、トランプ米大統領やプーチン露大統領との関係を果敢に構築し、高い外交力を見せた。その結果、日米貿易協定などで日本は不利益の回避に成功している。一方、外交経験のない「菅首相」にとり、首脳外交は鬼門となる可能性がある。米国などは、厳しい姿勢で貿易交渉に臨み、日本側の譲歩を引き出そうとするだろう。
政権基盤が必ずしも強固ではない「菅首相」は、達成が容易で国民に分かり易いミクロ政策の積み重ね、即ち「小劇場型」の政治・政策を目指すのではないか。具体的には、携帯電話の料金引き下げや地銀の再編などだ。また、政府内で対応できるデジタル庁の設立も実現するだろう。さらに、二階幹事長への配慮もあり、ダムの活用にも積極姿勢で臨むと見られる。
7年8ヶ月ぶりの新政権発足であり、市場内には不安と同時に新たな何かへの期待もあるようだ。しかしながら、マクロ面での財政・金融政策には既に変更の余地が極めて小さい。早期に解散・総選挙が行われた場合、与党が勝利することで「菅首相」の政治力が高まる可能性はある。しかし、マクロ政策でリスクを回避する姿勢は続き、政策の中心は比較的実現が容易で、国民に分かり易い案件に留まるのではないか。また、外交面において、日本に対する米国などからのプレッシャーが強まることも考えられ、この点には注意が必要だろう。
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