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- 総選挙へのシナリオ
報道各社が実施した最新の世論調査によれば、東京五輪に関して国民の評価は開会前と大きく変わったようだ。一方、菅義偉内閣の支持率はむしろ低下している。新型コロナ向けワクチン接種で米欧主要国に出遅れ、感染拡大に歯止めを掛けられていないことが要因だろう。過去の例を見ると、内閣支持率が30%を割り込み、与党の支持率を下回った場合、政権は早い段階で退陣に追い込まれてきた。野党側への有権者の期待が盛り上がっていないとは言え、総選挙が数ヶ月以内に迫るなか、与党は憂色を深めている模様だ。悪い流れを断つため、まず自民党総裁選を行い、その上で解散・総選挙との主張が与党内で勢いを増している。一方、菅首相は、衆議院を解散、総選挙で自民党の議席減を30程度に食い止め、同党総裁選を乗り切るシナリオを描いているのだろう。従って、9月5日にパラリンピックが閉会した後、菅首相が時を置かずに衆議院を解散するとの観測がある。立憲民主党と共産党の候補者調整に時間を与えないことも背景のようだ。しかしながら、いずれにせよ、総選挙は最も遅いタイミングで11月28日が限界だけに、日本の政局は極めて緊張感の強い状況になるだろう。
朝日新聞が7月18、19日に行った世論調査では、今夏のオリンピック・パラリンピック開催について、55%が「反対」と回答、「賛成」の33%を大きく上回った。しかしながら、五輪閉会式前後の報道各社の調査によると、五輪開催を「良かった」とする回答者が軒並み5割を超えている。アスリートの熱戦、特に日本人選手の活躍により、五輪のイメージは大きく変化したようだ。
東京五輪への評価が高まる一方、菅内閣の支持率は低下を続けている。8月は朝日新聞、NHKの調査で30%を割り込んだ。五輪はIOCと開催都市である東京都、そしてJOCの契約により開催され、政府の役割は側面支援である。従って有権者は五輪の成果と政権への評価を切り離し、ワクチン接種の遅れを含めた新型コロナの感染拡大に注目しているのだろう。
過去10代の政権を見ると、NHKの世論調査で内閣支持率が30%を割ると、そこから1年以内に例外なく退陣に追い込まれた。菅首相の場合、総選挙、そして自民党総裁選が迫るなかで、支持率は発足以来の最低水準になっている。五輪の開催を支持回復に結び付けられなかったことで、新型コロナ禍に対して結果を出す以外、挽回のチャンスは見出し難い。
内閣支持率は、事実上、時の首相の人気で決まる。従って、与党内では内閣支持率から与党第1党の支持率を引いた「首相プレミアム」が重視されてきた。NHKの8月の調査によれば、首相プレミアムはマイナスゾーンへと落ち込んでおり、自民党周辺では「菅首相では総選挙を戦えない」との見方が台頭、総選挙前に同党総裁選の実施を求める声が強まっている模様だ。
菅首相、そして与党にとっての好材料は、野党への有権者の期待が高まっていないことだろう。政権が交代した2009年は、8月30日に行われた総選挙の数ヶ月前には、自民党と野党第1党であった民主党の支持率が逆転していた。しかしながら、現在、野党第1党の民主党の支持率は6~8%程度であり、自民党、公明党の連立政権を脅かす水準には達していない。
公職選挙法の規定により、衆議院選挙の投票日は実質的に9月26日~10月17日、もしくは11月14日~28日、この間の7回の日曜日に限られる。自公両党内では、ワクチン接種の進捗に鑑み、「総選挙11月論」が勢いを得ている模様だ。一方、菅首相は、総選挙で自民党の議席減を30程度に抑え、その後の総裁選で無投票再選を目指すのがメインシナリオだろう。
総選挙に大きな影響を与えるのが野党の姿勢だ。各党の支持率を足しても自民党1党に及ばないが、小選挙区で立憲民主、共産両党が完全に候補者調整した場合、2017年10月の選挙結果を使ったシミュレーションでは、自民党が単独過半数を割る可能性が台頭する。菅首相としては、野党の調整を阻止する意味でも、早期解散を目指すのではないか。
自民党総裁選に先立ち総選挙が行われた場合。菅首相続投の条件は自民党の議席減を30程度に食い止めることだろう。一方、同党の獲得議席が単独過半数を割った場合、総裁選への立候補も困難になると考えられる。従って、単独過半数である233議席から30議席減の248議席のゾーンは、菅首相にとって続投の可否が不透明なゾーンと言えるのではないか。
五輪を政権浮揚の起爆剤にできなかった以上、新型コロナ対策で結果を出す以外、菅首相は総選挙に勝って長期政権化を図る手段を失った。米欧主要国、日本でもワクチンの効果は明確になったが、接種をさらに拡大して有権者の政権への評価を回復するためには、総選挙の時期を11月とする必要がある。しかし、そのシナリオだと自民党総裁選が先になり、同党内で「菅降ろし」の動きが活発化する可能性が高まりかねない。従って、菅首相はパラリンピックが終わる9月5日から間を置かずに解散期を模索すると見られ、新型コロナの感染状況がその判断を大きく左右するだろう。いずれにせよ、今秋は政局の流動化が避けられそうにない。
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