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中国リスク
市川 眞一
2023/10/17

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概要

中国においては、秦剛前外交部長(外相)が解任される一方、副首相級とされる国務委員には留まっている。また、李尚福国防部長(国防相)は、肩書こそ変化はないが、既に1か月以上動静が伝えられていない。汚職など何等かのスキャンダルであれば、発覚した時点で間を置かずに全ての役職から更迭されるのがこれまでの例だった。重要ポストを占める人物が相次いで姿を見せない理由として、中国共産党の中枢において権力闘争が起こっている可能性は否定できない。仮にそうだとすれば、背景は経済の停滞だろう。IMFは2028年における中国の実質成長率を3.4%とした。足元、若年層の失業率が高く、国外からの投資は細った。国家安全保障に関する米国の輸出入管理に加え、改正反スパイ法のリスクが外国企業に中国への投資を躊躇わせているのではないか。中国共産党は年内にも経済問題を議論する第3回中央委員会全体会合を開催する見込みだ。厳しい議論になることが予想され、批判を恐れる習政権が対外強硬策を採る可能性は否定できない。



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■ 共産党が国家の中心

習近平主席の側近と言われた秦剛前外交部長は、6月下旬から動静が伝えられなくなり、7月25日に外交部長を解任された。ただし、国務委員には留まっている。一方、李尚福国防部長は、既に1か月以上、公の場に姿を現していない。こうした中途半端な人事は、中国においては異例のことだ。共産党指導部で何等かの権力闘争が激化、それが人事に影響を与えている可能性は否定できない。

 

 

■ 中国の成長率は急速に鈍化の見通し

不可解な人事の背景は、経済の不調ではないか。IMFは2023年における中国の実質成長率を5.2%と予測しているが、昨年はゼロコロナ政策により3.0%に止まった点を考えると、リバウンドとしては物足りない想定だ。また、人口減少・高齢化の影響が顕在化、2028年の実質成長率は3.4%と見込まれている。中国経済の高度成長期は既に終わり、安定成長期に入った可能性は否定できないだろう。

 

 

■ 江沢民派、共産主義青年団、人民解放軍幹部が失脚

習近平時代の幕開けは、国家副主席であった2012年、重慶市における共産党書記長だった薄熙来氏の腐敗を追求したことに始まった。その後も腐敗撲滅運動は続き、多くの共産党や人民解放軍の高官が退任を余儀なくされている。一方、昨年10月の共産党大会で、習主席は共産党中央政治局常務委員の7名を自らも含め側近で固めた。そうしたことに関し、共産党周辺では不満の声があるのではないか。

 

 

■ 習近平主席の治世下で成長率は顕著に低下

過去4代の国家主席の治世下における中国の年平均実質成長率を見ると、習近平主席は最も低い水準であり、今後はさらなる低下が予想される。中国共産党の一党独裁を国民が容認してきた要因は、経済が高速で成長し、暮らしが急速に豊かになったからだろう。仮にIMFの想定する低成長期に入った場合、習主席は共産党内部、そして国民から厳しい批判にさらされることになるのではないか。

 

 

■ 中国は固定資本投資のウェートが40%を超える

中国経済の特徴は、固定資本投資の比率が極めて大きい一方、個人消費が未成熟なことだ。1980年代以降の『改革・開放』では、設備投資による輸出の拡大、そして不動産開発による地方の活性化が強く意識されてきたからだろう。しかしながら、中国経済が成熟期を迎えるとすれば、消費主導へ構造を転換する必要がある。習近平国家主席の提唱する『共同富裕』は、そうした転換を標語にしたものと考えられる。

 

 

■ 若年者の高失業率は国民による不満の温床になる可能性

中国においては、若年層の失業率が20%を超えていた。若い世代の失業がSNSを通じて結び付くと、政権への厳しい批判となることも想定される。そこで、中国当局はSNSの管理を著しく強化した上、国家統計局は既に世代別の失業率の公表を取り止めた。不都合な真実だからではないか。もっとも、この状態が長引けば、習近平政権、共産党への国民の不満は高まらざるを得ないだろう。

 

 

■  2023年4-6月期の対中直接投資は過去20年で最低水準

今年4-6月期、中国に対する国外からの直接投資は前年同期87.1%減の49億ドルになった。これは確認できる1998年以降で最少の規模だ。米欧主要国における利上げに加え、中国が強化した改正反スパイ法が影響しているのではないか。経済構造の転換へ向け、中国は外資による経済の活性化を必要としていると見られる。そうしたなかでの投資の減少は、経済にとって大きな痛手だろう。

 

 

■ 5年で7回の全体会合、第3回は経済が主題

中国共産党は、5年毎に党大会を開催、その間に7回の中央委員会全体会合を開催している。経済問題を議論する第3回全体会合(3中全会)は、年内に開催される見込みだ。経済の停滞により、厳しい議論となる可能性がある。習近平主席は、共産党最高幹部である中央政治局常務委員7人を側近のみで構成したことから、責任を転嫁することができず、むしろ自らを追い込んだ感が否めない。

 

 

■ 中国リスク:まとめ

中国経済の停滞は習近平政権の安定性に直結する問題ではないか。これまで、習主席は腐敗撲滅として党内、軍内の批判勢力を更迭、共産党中枢を自らの側近で固めた。しかしながら、それは全ての結果責任を負うことになるため、両刃の剣と言えるだろう。投資主導経済から消費主導経済への転換を図ると見られるものの、それには長期間を要すると想定される。景気の落ち込みで共産党への批判が高まれば、台湾問題などで強硬策に出る可能性は否定できない。中国関連への投資のリスクと言えるだろう。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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