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ガソリン価格抑制への3つの手段
市川 眞一
2022/07/05

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概要

西側主要国の政治が不安定化している。ドイツでは地方選挙で与党である社会民主党(SPD)が大敗、フランスの下院選挙でもエンマニュエル・マクロン大統領を支える中道右派連合が過半数を割った。米国ではジョー・バイデン大統領の支持率が低迷している。背景はインフレによる国民生活への影響だろう。参議院選挙の最中にある日本では、岸田内閣の支持率が小幅ながら低下した。ロシアに対する制裁措置は、エネルギー価格の高騰を通じて西側諸国にも経済的な負担を強いており、それが政権への不満になっていると考えられる。これに対して、主要国はウクライナへの支援を継続すると同時に、戦争長期化に備えて3つの対応策を採りつつあるのではないか。それは、1)核開発を巡るイランとの協議再開、2)サウジアラビアと米国の関係改善、3)米国のシェールガス・オイルの増産と天然ガス液化プラントの増強・・・である。ロシアは世界の天然ガス純輸出の40%、石油の20%を供給する資源大国だ。その量を埋めるのは簡単ではなく、エネルギー価格は高止まりが予想される。ただし、3つの対応策が機能する場合、価格上昇圧力は緩和される可能性があるだろう。



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米国では、ジョーバイデン大統領の支持率が就任以来最低の39.0%へと低下、不支持率の55.5%を15ポイント以上下回った。同時期のドナルド・トランプ前大統領の支持率(42.3%)にも届いていない状況だ。今春以降の支持率の一段の低下は、ガソリン価格に代表される物価高騰によると考えられる。ロシアへの経済政策の影響は、政権への不満を生んでいるようだ。

 


ドイツでは2州の州議会選挙でSPDが大敗し、フランスでもエンマニュエル・マクロン大統領を支える中道右派連合が下院で過半数を失った。参議院選挙の最中にある日本の場合、大手メディアによる世論調査で岸田内閣の支持率が小幅ながら低下している。ただし、野党側が政権への不満の受け皿になっているとは言い難く、参院選への影響は限定的ではないか。

 


ウクライナでの戦闘が長期化の様相を呈するなか、西側主要国ではエネルギー価格抑制への努力が見られるようになった。その1つは核開発を巡るイランとの協議再開だ。米国の経済制裁が緩和され、イランが原油輸出を本格的に再開した場合、日量200万bbl程度の供給増が想定される。これは、2020年のロシアの原油輸出量の約4割に相当する規模だ。

 


西側諸国にとってのエネルギー対策の2つ目は、サウジアラビアへの働き掛けだろう。シェール革命以降の米国の中東政策に不満を持つサウジは、OPECプラスの枠組みを使いロシアと協調して原油価格の高値維持を図ってきた。バイデン大統領は、7月13~17日に中東を歴訪、サウジを訪問してムハマンド皇太子と会談し、関係の修復を働き掛ける見込みだ。

 


ロシアによるウクライナ侵攻に関し、国連安全保障理事会はロシア自身の拒否権で機能していない。そこで、米国、欧州、日本は国連総会の場でロシアへの非難決議を2回、ロシアを人権理事会の資格停止とする決議を1回行った。人権理事会に関する決議は採択されたものの、賛成国が大幅に減少する一方、新興国のなかに棄権、反対に回る国が増加した。

 


国連人権理事会におけるロシアの資格停止の是非を決した総会の投票で、棄権、反対した国には資源国が少なくない。これは、昨今の世界の分断が、米国と中国の派遣争いだけでなく、資源消費国である西側主要国と資源国との間にも生じていることを象徴するのではないか。サウジアラビアはその代表格であり、同国を訪問するバイデン大統領の外交手腕が注目される。

 


エネルギー価格高騰に関する第3の手段は、米国のシェールガス、シェールオイルの増産だろう。地球温暖化抑止を重視するバイデン政権は、発足当初、シェール開発に歯止めを掛ける姿勢を示していた。その結果、化石燃料価格の高騰を招いた感は否めない。しかしながら、ロシアによるウクライナへの侵攻により、バイデン政権は姿勢を大きく転換しつつある。

 


新型コロナの感染第1波直前、米国の産油量は日量1,310万bblに達していた。その後は急減したものの、足下は1,200万bblまで回復している。資源大国である米国にとって、足下のエネルギー価格の高騰がプラスに作用する産業・企業もある。バイデン政権は、地球環境に配慮しつつも、シェール開発を後押しし、加えて天然ガスの液化プラント増強を支援するだろう。

 


ロシアへの制裁措置は、エネルギーなど資源価格の高騰を通じて西側諸国にも経済的なダメージをもたらし、主要国では政治が不安定化している。これに対して、1)核開発を巡るイランとの協議再開、2)サウジアラビアと米国の関係改善、3)米国のシェールガス・オイルの増産と天然ガス液化プラントの増強・・・3つの対策が講じられつつあるようだ。これらのハードルが低いわけではないが、具体策の進捗が市場のコンセンサスになることで、一段の価格高騰を抑制する効果は期待できる。また、米国の場合、ロシアのシェアを奪って原油、天然ガスの輸出を拡大することにより、資源国としての経済の強さを世界に再認識させる可能性もあるだろう。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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