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新型コロナ感染第7波!?
市川 眞一
2022/07/12

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概要

国内における新型コロナの新規感染者が都市部を中心として急速に増加、第7波に入ったと見られる。もっとも、政府は現段階において行動規制を伴う蔓延防止等重点措置、緊急事態の発令を検討してはいない模様だ。今年初めの第6波以降、感染力が強い一方で毒性の低下したオミクロン型が主流になったことに加え、ワクチン接種の進捗により重症化率が大きく低下した。結果として医療供給が維持できているため、政府は感染拡大抑止から、経済活動の正常化を重視する方向へ政策の舵を切りつつある。もっとも、感染症法上の第5類相当への見直しは簡単には進まないだろう。広範な感染者に処方可能な軽症者、中等症者向けの経口治療薬が開発されておらず、引き続き入院手続きなどに関して保健所の介在を必要としているからだ。今のところ、新型コロナ感染対策は医療面ではワクチン接種に限られており、医療供給体制に綻びが生じるリスクを考えると、選択肢としては行動規制を残しておく必要がある。他方、東京都における人流のデータを見ると、回復途上にはあるが、公共交通機関、職場は新型コロナ禍前と比べ20%程度少ない。社会・経済の変化は不可逆なのだろう。



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新型コロナの新規感染者が全国的に急増している。3月21日をもって18都道府県に発令されていた蔓延防止等重点措置が解除され、人と人との接触機会が大きく増えたことが要因だろう。東京都の小池百合子都知事は、7月7日の新型コロナに関するモニタリング会議で「第7波」に言及した。全国的に見ても第7波が既に始まったと考えるべきではないか。

 


入院療養を必要する感染者に占める重症者の比率は、混乱の下で診断基準も曖昧だった第1波を除けば、第5波の下で昨年10月26日に記録した5.6%がピークだった。これに対して、第6波では1%を切る状況が続き、足下は0.03%に過ぎない。感染の中心が毒性の強いデルタ型から、感染力は強いが毒性の低いオミクロン型へシフトしたことが大きいだろう。

 


重症化が抑制されているもう1つの理由は、ワクチン接種の進捗だ。第5波が始まった昨年7月初め、ワクチンを2回接種した人の比率は14.6%に過ぎなかった。一方、第6波の起点となった2022年の年明けは、2回接種者が78.3%に達し、3回目の接種も始まっていたのである。主要国に比して出遅れた日本の3回目接種だが、7月7日現在で62.1%に達した。

 


ワクチン接種に関しては、高齢者、医療従事者への接種が優先的に行われたことで、クラスターの発生し易い病院、高齢者施設における新型コロナ対策が進んだことも効果を発揮した。結果として、感染・発症はしても、重症化が抑制できるケースが増えたのだろう。それ故、新規感染者数が最大となった第6波において、緊急事態の宣言には至らなかったのである。

 


新型コロナ向け重症病者用病床の使用率を都道府県別に見ると、最も高い沖縄で18.3%、東京は17.4%、大阪は8.4%だ。第5波のピークであった昨年8月25日、東京都の使用率は94%、第6波も2月23日に48%へと上昇している。それらの時期と比べ、医療供給の逼迫を懸念すべき段階ではない。この点は政府にとり行動規制を伴う措置の重要な判断材料だ。

 


新型コロナの致死率は、季節性インフルエンザと同水準へ低下した。もっとも、現在、新型コロナは感染症法上の「新型インフルエンザ等感染症」に分類されている。季節性インフルエンザと同じ第5類へ変更を求める声はあるが、広範な軽症者、中等症者に処方できる経口治療薬がなく、感染拡大期には引き続き入院療養などに際して保健所の介入を必要とするだろう。

 


軽症、中等症向けの経口治療薬に関して、政府内には塩野義が開発中のゾコーバ(Xocova)への期待があったものの、6月22日、厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品第2部会は緊急承認の可否を持ち越した。ファイザーのパキロビットパックは高齢者の多くに処方できない。畢竟、対策はワクチン接種と感染拡大期における行動規制にならざるを得ないだろう。

(なお、当レポートは特定の銘柄の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、その価格動向等を示唆するものでもありません。)


 

Googleの提供するデータを見る限り、東京都内の公共交通機関、職場などの人流は新型コロナ禍以前の状態に戻ったわけではない。これは、多くの企業や学校が出社、登校比率を引き上げつつも、在宅勤務、リモート授業と併用していることを示していると見られる。こうした社会・経済の変化は構造的であり、不動産市況などに大きな影響を及ぼす可能性がある。


 

新型コロナは変異により季節性インフルエンザに近付きつつあるようだ。しかしながら、広範な軽症者、中等症者向けの経口治療薬がないため、感染症法上の分類を見直し、季節性インフルエンザと同じ第5類にするのは現段階では難しいのだろう。当面はワクチン接種、そして感染拡大期における行動規制、この2つが感染を抑止する重要な手段と言える。もっとも、足下、感染第7波が始まったと見られるにも関わらず、政府は蔓延防止等重点措置などの発令を極力避ける見通しだ。重症化率の低下に伴い、政府の軸足は感染抑制から経済正常化へ移っており、医療供給体制が維持される間は、その方針に変更はないだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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