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- 中国共産党大会のインパクト
10月16日より5年に1度の中国共産党第20回党大会が開催される。この大会は、中国政府を指導する立場にある共産党の最高幹部の人事が行われるため、同国の政治にとっては最も重要なイベントだ。今回は習近平党中央委員会総書記(国家主席)の続投が決まる見込みであり、1982年に権力の集中を避けるため廃止された「党中央委員会主席」のポストが復活、就任する可能性も取り沙汰されている。昨年11月の第19期第6回全体会合(6中全会)においては、建国の父である毛沢東、中興の祖である習近平時代以来の『歴史決議』が採択された。少なくとも表面的には、習総書記への権力の集中、個人崇拝的な動きが加速しているようだ。もっとも、同総書記が毛沢東や鄧小平と比肩し得る事績を残してきたとは言い難い。目立つ成果と言えば、香港の一体化と腐敗撲滅運動による共産党・人民解放軍幹部の粛清だろう。3期目に入る習総書記は、文字通り歴史的な事業に取り組むと見られ、その最有力候補は台湾の統一と見られる。2024年に蔡英文台湾総統が退任した後、2027年秋の習総書記の任期満了まで、東アジアにおける緊張感は極めて高い状態を保つと予想される。
中国共産党の結党は第1回大会が開催された1921年7月に遡る。当初は不定期だったが、1977年の第11回大会以降、5年に1度のサイクルが定着した。同党の主なイベントは、この5年間に7回の中央委員会全体会合を行うことで構成される。党大会及びその直後の中央委員会第1回全体会合(1中全会)は、党幹部を選出する極めて重要なイベントだ。
2021年末の時点で、中国共産党の党員は9,671万人だが、党大会ではこのなかから約200名の中央委員会委員、約170名の候補委員が選ばれる。さらに、大会直後に開催される1中全会において、中央委員のなかから中央政治局員25名が選出され、うち7名が中央政治局常務委員に就任する。そのトップに立つのが中央委員会総書記に他ならない。
中華人民共和国憲法序章には、国務院(内閣)を含めた国家の各組織を「中国共産党が統率指導する」と書かれている。共産党及び国務院(内閣)、全国人民代表大会(国会)、人民解放軍など主要組織の人的関係を見ると、党中枢が全ての組織を支配していることが明確だ。従って、国家元首である「国家主席」よりも、「党総書記」が実質的な意味を持つと言えよう。
共産党の最高指導部である中央政治局常務委員会は、過去10年間、習近平総書記、李克強国務院総理(首相)を含む7名で運営されてきた。慣例上、党大会の開催時に68歳以上である場合、原則として引退するため、69歳の習近平総書記を例外として、序列第3位の栗戦書全国人民代表大会常務委員長、第7位の韓正国務院副総理は交代する可能性が強い。
中央政治局常務委員の構成と共に注目されるのが、国務院(内閣)を指揮する総理の人事だ。政治局常務委員で党内序列4番目の汪洋全国政治協商会議主席が有力候補であり、対抗馬が中央政治局委員の胡春華国務院副総理と言われている。両氏は習総書記に近い政治家ではないとされるだけに、この人事は共産党指導部内の力関係を示す可能性がある。
偉大な指導者とされる毛沢東、鄧小平と比べ、習近平総書記の明確な業績を思い起こすのは容易ではない。例えば経済だが、1981~89年の胡耀邦・趙紫陽時代、1989~2002年の江沢民時代、そして2002~2012年の胡錦涛時代、中国の実質成長率は年平均10%程度を維持していた。しかしながら、習総書記の10年に関しては、年6.3%へと減速している。
習近平体制での大きな変化と言えば、「腐敗撲滅」のスローガンの下、共産党中枢、人民解放軍トップを含めて大規模な粛清が行われてきたことだろう。党、人民解放軍の最高幹部も数多く失脚した。近年は司法、警察関係者の粛清も目立つ。不正の摘発、公正な裁判は好ましいことだが、習近平総書記にも大きなプレッシャーが生じていることは想像に難くない。
3期目に入るとすれば、習近平総書記にとって重要なのは毛沢東、鄧小平に比肩し得る実績を挙げることではないか。経済成長で目覚ましい結果を出すことが困難である以上、残された選択肢のうち最有力は台湾の統一だろう。際英文台湾総統が退任する2024年5月から、習近平総書記が任期満了となる2027年秋まで、東アジアでは緊張感の高まりが予想される。
ジョー・バイデン米国大統領が度々台湾の防衛に関し発言、西側諸国の国会議員が繰り返し台湾を訪問しているのは、2024~27年を意識した動きだろう。中国は、硬軟織り交ぜて台湾へのアプローチを続ける見込みだ。中国共産党第20回党大会は、台湾を巡る攻防本格化へのキックオフとも言え、その最前線の北側に位置する日本にとっても無縁とは思えない。半導体を中心とした経済安全保障を中心に、日本の外交及び安全保障戦略が問われることになりそうだ。特に中国とどのような関係を築くのか、岸田文雄首相にとっては大きな課題と言える。もっとも、これまでのところ、岸田政権は明確な対中戦略を示していないことが懸念される。
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