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COP27に見る国際社会の分断とビジネスチャンス
市川 眞一
2022/11/29

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概要

国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が閉会した。2日間の延長により、新興国・途上国が求めていた「損失と被害」に関する基金の設立が決まった。もっとも、具体的な内容はCOP28へ先送りだ。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、国際的なエネルギーの需給関係に強い不透明感が台頭するなか、地球温暖化問題に関する先進国対新興国・途上国の対立は、むしろ深まったと言えるかもしれない。国際社会の分断が様々なかたちで顕在化、国際会議の運営は難しさを増すだろう。一方、地球温暖化は加速しており、温室効果ガスの排出抑制は待ったなしの状況だ。さらに、ウクライナ情勢を受け、主要先進国においてはエネルギー自給率の引き上げが喫緊の課題になった。カーボンプライシングの導入により、温室効果ガス排出のコストを可視化しつつ、市場原理を活用したESGの推進が図られるのではないか。分断の時代において国際的な枠組みは機能し難いものの、ビジネス及び投資のチャンスとしてESGの重要性はむしろ高まっている。



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■ COP:ドイツは28回中4回、ポーランドは3回開催

1994年3月21日に発効した国連気候変動枠組条約は、原則として年1回、締約国による会議(COP)の開催を求めている。過去28回のCOPのうち14回は欧州で行われ、ドイツは4回に亘ってホスト国を務めた。温暖化対策が欧州主導で進められてきたことを象徴する数字と言えそうだ。一方、米国で開催されたことはない。これは、温暖化問題に関する同国内の複雑な事情を反映しているだろう。


 

■ 世界の気温は温室効果ガス排出量に連動して増加


IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が今年5月に公表した『第6次評価報告書・第1作業部会報告書』は、「1750年頃以降に観測された温室効果ガスの濃度増加は人間活動によって引き起こされたことに疑う余地がない」とした。その上で、「1850~1900年から2010~2019年までの人為的な世界平均気温上昇は  0.8~1.3℃の可能性が高く、最良推定値は 1.07℃である」との結論を示している。

 


■ 統計的に正の相関関係が成立する排出量と気温

温室効果ガス排出量と気温の関係を統計的に見ると、少なくとも過去170年間に関しては、明らかに正の相関関係が存在する。第1作業部会報告書は、2100年までの温室効果ガスの排出量による温度変化を5つのシナリオに分けて推計した。最悪のシナリオでは、気温が3.3~5.7℃上昇、大雨の発生頻度は2.7倍、干ばつの発生する頻度は4.1倍と見込まれている。生態系に与える影響は甚大だろう。


 

■ 二酸化炭素濃度は過去80万年ないレベルに到達


南極で掘削された氷柱の分析から、過去80万年間に10万年を周期とする8回の氷河期と間氷期のサイクルがあり、大気中の二酸化炭素濃度は228ppmを中心に200〜260ppmの範囲で循環していたことが判明した。米国海洋大気庁によれば、2022年の二酸化炭素濃度は418ppmに達している。18世紀半ばからの産業革命以降の影響による異常値であり、地球環境に与える負荷は極めて大きいだろう。

 


■ 中国など新興国・途上国が世界の3分の2を排出

2019年における温室効果ガスの排出量は、中国が全世界の27.4%を占め、インド、ロシアなど他の新興国・途上国を合わせて66.1%に達していた。気候変動に関し、新興国・途上国の重要性が高まっているのはこのためだ。特に新興国は、旧ソ連が崩壊した1991年以降、急速に進む工業化のなか排出量が大きく増加した。グローバリゼーションの負の側面と言えるだろう。


 

■ 1990年代に入り新興国の排出量が急増


旧ソ連の崩壊により、米国主導の下、世界のサプライチェーンの統合が進んだ。その結果、教育水準が高いにも関わらず、労働コストが相対的に低かったASEAN諸国、中国、メキシコなどが工業化、対先進国向け輸出により高度経済成長期に入った。従って、近年における温室効果ガスの排出拡大は、概ね新興国が要因となっている。一方、成長が減速した先進国は、排出量も概ねピークアウトした。

 

■ 新興国はエネルギー効率に問題

原単位方式、即ちGDP1ドルを得るに当たって排出される温室効果ガスは、足下、米国、日本が共に0.24kgなのに対し、ロシアは1.17kg、インド0.91kg、中国は0.75kgだ。つまり、同じ付加価値を生み出すのに、中国は米国、日本の3倍の温室効果ガスを排出しなければならない。西側先進国の立場から見れば、温室効果ガスの排出量を減らす上で、新興国・途上国による持続的な努力が必須だろう。

 

■ 産業革命以降、先進国は環境に負荷を掛けつつ経済を成長させた

18世紀半ばに始まる産業革命以降、現在の主要先進国が温室効果ガスを大量に排出する時期が続いた。新興国の立場に立つと、既に経済を成熟化させ、十分に豊かになった先進国が、現在の状況を静止的に捉えて、新興国・途上国の努力を求めるのは身勝手に映るのだろう。この点において、先進国と新興国の対立は深刻だ。新興国が先進国に対し技術的、経済的支援を求める背景と言える。

 

■COP27に見る国際社会の分断とビジネスチャンス:まとめ

COP27は「損失と被害」に関する基金の設立で合意したが、具体策は次回会議へ先送り、国際社会の分断の下での調整の難しさを浮き彫りにした。一方、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、西側主要国にとって、エネルギーの自給体制確立が喫緊の課題になっている。カーボンプライシングにより温室効果ガス排出コストの見える化を進め、エネルギーの確保、排出量抑止の両立が求められているわけだ。この古くて新しい課題は、市場原理の活用が鍵を握っている。ESGを軸とした先進的な技術開発や取り組みにより、新たなビジネス及び投資のチャンスがむしろ広がりつつあると言えるかもしれない。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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