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米国の政治的・経済的最重要課題を巡る攻防
市川 眞一
2023/01/17

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概要

米国連邦議会下院はケビン・マッカーシー下院議長を選出したものの、共和党内の保守強硬派21名が抵抗、投票が15回に及ぶ難産だった。2024年の大統領選挙へ向け、下院共和党はジョー・バイデン大統領と対峙する姿勢を強めるだろう。一方、最近の世論調査を見ると、同大統領の支持率は緩やかな回復基調にある。ガソリン価格に象徴される物価上昇率のピークアウトが背景なのではないか。もっとも、2023年の年初と見られていたバイデン大統領の再選へ向けた出馬表明は、当面、見送られる可能性が強まった。副大統領時代の機密文書がデラウェア州の自宅及び事務所などから見付かったことで、司法省が特別検察官を任命したからだ。この影響についてはまだ不透明感が強いものの、共和党が過半数を握る連邦下院において弾劾訴追が検討される可能性は否定できない。また、バイデン大統領の政権運営にとり、民主党系が過半数を維持した上院において、キルステン・シネマ、ジョン・マンチン両議員を含めた結束の維持が極めて重要だろう。



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■ 15回目でケビン・マッカーシー議長を選出

1月3日に開会した第118議会において、連邦下院は最初に議長の選出選挙を行った。昨年11月8日の中間選挙で共和党が多数となり、ケビン・マッカーシー同党下院院内総務の議長就任は順当な結果と言えるだろう。しかしながら、共和党内の保守強硬派21名がマッカーシー氏に反発したことから、投票は15回に及んだ。このグループは、当面、共和党内での発言力を強めることが予想される。

 

■ 最強硬派6人中5人は2020年の大統領選挙を否定

マッカーシー議長の選出に抵抗した21名だが、15回目の投票で15名は同議長に投票したものの、6名は棄権した。このうち、5名は2020年の大統領選挙結果を認めていない。また、マット・ゲーツ議員は、7~9回目及び12回目の投票でトランプ前大統領の名前を書いた。マッカーシー議長は選出過程でこれら保守強硬派に大きく譲歩しており、バイデン大統領に対して強硬姿勢を採らざるを得ないだろう。

 

■ 保守強硬派は結束により譲歩を迫る

共和党保守強硬派21名の投票行動を詳しく見ると、212議席を持つ民主党に議長ポストが渡らないよう配慮するなど、冷静に計算しつつ結束を維持した跡が見られる。その上で、マッカーシー議長から大きな譲歩を引き出した。バイデン大統領にとっては、非常に手強い相手になる可能性が強い。2024年11月の大統領選挙へ向け、ホワイトハウスと議会下院の攻防が激化するのではないか。


 

■ バイデン大統領の支持率は緩やかな回復過程

最近の世論調査によれば、バイデン大統領の支持率は緩やかな回復傾向にある。ABCが運営するニュースサイト、Five Thirty Eightの集計によると、昨年7月21日に37.5%まで落ち込んでいた支持率は、足元、43.7%へと6%ポイント上昇した。もっとも、不支持率は51.5%で支持率を依然として大きく上回っており、有権者の同大統領に対する評価が本格的に回復したわけではないようだ。

 

■ この時期の支持率が大統領再選を決めるわけではない

トランプ前大統領まで10代の大統領の就任後2年経過時の支持率は平均50.2%だ。やや意外なのは、ロナルド・レーガン大統領が41.1%に止まっていたことである。ただし、1年10か月後の大統領選挙は圧勝した。一方、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領の場合、57.8%に達したものの、再選されなかった。つまり、この時期の世論調査結果は、かならずしも大統領選挙の帰趨を占うものにはなっていない。


 

■ ガソリン価格の落ち着きはバイデン大統領にとり追い風

バイデン大統領の支持率は、2021年8月末のアフガニスタンからの米軍撤退時における混乱、そしてガソリンに象徴される物価の高騰・・・2段階で低下した。足元、ガソリン価格がピークアウトしたことが、現職大統領にとっての追い風になっているようだ。そうしたなか、デラウェアの自宅、個人事務所で見付かった副大統領時代の機密文書問題に対する特別検察官の査察が、当面の政治的課題になるだろう。

 

■ 共和党はトランプ、ディサンティス両候補が抜け出す

最近の世論調査によれば、共和党の大統領候補レースは、トランプ前大統領が依然として先行している。もっとも、フロリダ州のロン・ディサンティス知事が猛追しており、マイク・ペンス前副大統領など他の有力候補からこの2人が抜け出した状態だ。ディサンティス知事は、下院議員時代、「フリーダムコーカス」を創設した中心人物の1人であり、共和党保守強硬派の支持を得易いと見られる。

 

■ バイデン大統領に対するトランプ、ディサンティス両氏の支持は拮抗

バイデン大統領の再選へ向けた立候補を前提とする場合、トランプ前大統領、ディサンティス知事、どちらの支持率も現職大統領に対して拮抗した状態だ。これは、ディサンティス知事が全国的に認知されたことを示すだろう。そうしたなか、共和党がバイデン大統領の再選を阻止しようとすれば、勝てる可能性の高い候補者を擁立するだけでなく、バイデン政権の政策を滞らせることが肝要と言える。

 

■米国の政治的・経済的最重要課題を巡る攻防:まとめ

バイデン大統領の再選戦略で極めて重要なことは、現職として政策で成果を出すことだろう。一方、共和党側は、その阻止を目指すと考えられる。つまり、大統領と共和党の攻防は、下院が主戦場となる可能性が強い。特に最大の山場は、今夏と見られる連邦債務上限の引き上げ法案ではないか。2011年に米国が実質債務超過に陥った際には、世界のマーケットに大きな影響を及ぼした。バイデン大統領は、機密文書問題の早期終結を目指す一方で、連邦債務上限の引き上げ法案の早期成立へ向け、議会対策を強化するだろう。その成否が、同大統領の再選に大きく影響することになりそうだ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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