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6月解散・7月総選挙のシナリオ
市川 眞一
2023/05/30

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概要

G7広島サミットは、ウクライナのウォディミル・ゼレンスキー大統領が電撃訪日して出席したこともあり、日本国内での評価も高いようだ。大手メディアが行った世論調査において、岸田文雄内閣の支持率は急上昇している。2024年9月の自民党総裁選へ向け、岸田首相が再選戦略を描くとすれば、それまでに解散・総選挙を実施、自民党が勝つことが必須の要件なのではないか。7年8か月の長期政権を維持した安倍晋三首相は、2015年9月、2018年9月の自民党総裁選を控え、2014年11月、2017年9月に衆議院を解散した。また、野党への支持は盛り上がっていない上、候補者の選定や各党間の選挙協力の協議も遅れているようだ。岸田首相は、6月に閣議決定する『経済財政運営と改革の基本方針』(骨太の方針)で子ども・子育て支援を軸に据え、それに対する国民の信を問う形で今通常国会会期末となる6月21日までに解散する可能性がある。その場合、総選挙は7月中旬になるだろう。今後、日本の政局は緊迫の度合いを増すことが予想される。



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■ 岸田内閣の支持率は回復へ

岸田内閣の支持率は、閣僚の相次ぐ更迭に加え、統一教会問題が顕在化したことで、昨年後半は低下基調をたどった。しかし、今年に入って外交への評価から回復に転じた上、G7広島サミットは岸田首相にとり強い追い風となったようだ。各国の首脳が揃って平和記念公園を訪問した上、ウクライナのゼレンスキー大統領が来日、G7の結束が高まったとの感を日本の有権者が強く受けたからだろう。

 

 

■ 岸田首相のプレミアムは急速に拡大

内閣支持率は、概ね内閣総理大臣の支持率と言える。そこで、内閣支持率から与党第1党の支持率を差し引いた値が「首相プレミアム」だ。この首相プレミアムが高水準であれば、与党内における首相のリーダーシップが高まり、政権は安定する。一方、首相プレミアムがマイナスになると、首相の交代期となるケースが多い。岸田首相の場合、一時はマイナスになったものの、今年に入り急速に回復しつつある。

 

 

■ 岸田首相は自民党総裁選までに衆議院解散のタイミングを探る

前回の衆議院総選挙は2021年10月に行われており、任期満了は2025年10月だ。もっとも、来年9月には自民党総裁選がある。岸田首相がこの総裁選において再選を目指すには、それ以前に衆議院を解散、国民に信を問うことが重要だ。仮にこの総選挙で自民党が勝てば、間接的にせよ岸田首相を国民が支持したことになるため、与党内における同首相のリーダーシップは大きく高まるだろう。

 

 

■ 3年以内の総選挙だと与党の勝率高まる

衆議院の任期は4年間である。もっとも、現行憲法下、任期満了で行われた総選挙は1976年12月の1回のみだ。自民党が結党された1955年11月以降の22回で見ると、3年以下の間隔で行われた10回のうち、9回で解散時与党第1党が過半数を確保した。一方、3年超で行われた12回では、8回で与党第1党は過半数を得られていない。内閣総理大臣にとって、概ね2年の間隔で解散するのが政権維持の要諦と言えよう。

 

 

■ 安倍首相は自民党総裁選約1年前に衆議院を解散

連続7年8か月の長期政権を維持した安倍元首相の場合、2015年9月、2018年9月の自民党総裁選挙で2回再選された。これら総裁選の概ね1年前となる2014年11月、2017年9月に衆議院を解散、自民党を圧勝に導いたのである。岸田首相にとっては、2023年中の良いタイミングを選び、解散して自民党を勝たせることが、同党総裁選再選へ向け弾みを付ける上で重要な決断になるのではないか。

 

 

■ 自民党は接戦を制し1議席を増加

統一地方選挙後半戦に合わせて4月23日に行われた5つの国政補選において、自民党は議席を1増やし4勝1敗とした。各選挙を詳しく見ると、複数で僅差の勝利だったことは間違いない。ただし、補選は数が限られる一方、総選挙は289小選挙区で戦わなければならない。総合力が問われるため、地方議員を多く抱える自民党、組織力の強い公明党が有利になる傾向がある。補選の結果は参考に過ぎない。

 

 

■ 自民党が野党を大きく引き離す

最近の報道各社の世論調査を見ると、自民党の支持率が高水準で安定しているのに対し、野党は一般に勢いに欠ける。また、野党側は総選挙へ向け候補者の擁立が遅れている上、各党間の選挙協力も進んでいない模様だ。統一地方選挙で躍進した日本維新の会は総選挙でも議席を伸ばす可能性はあるが、他の野党は厳しいだろう。自民党にとっては、総選挙を実施するのに有利な状況と言える。

 

 

■ 岸田首相は今のところ歴代32位、戦後17位

岸田首相の就任以来19か月が経過した。仮に来年9月の自民党総裁選挙で再選された場合、6年の長期政権になる可能性が強まる。それは、小泉純一郎首相を抜き、憲政史上6番目、戦後だと4番目の長い在任期間に他ならない。岸田首相は、次の総選挙で自民党に勝利をもたらした場合、同党の結党以来の悲願である憲法改正に着手するなど、政権長期化へ向け大きな課題に取り組むだろう。

 

 

■ 6月解散・7月総選挙のシナリオ:まとめ

G7広島サミットの成功は、岸田首相にとって、早い段階での解散を決断する大きな材料になった可能性がある。自民党周辺には早過ぎるとの見方もあるものの、秋まで決断を先送りした場合、不測の事態により解散できない状況になるリスクも考えなければならない。また、野党側は遅れている選挙準備を進め、態勢を整えることに注力するのではないか。そうした情勢を考えれば、岸田首相が今通常国会会期末の6月21日までに衆議院を解散するシナリオは十分にあり得る。その場合、総選挙は7月中旬になりそうだ。いずれにしても、通常国会終盤へ向け、政局の動きは急速に活発化することが予想される。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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