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米国大統領選挙 アップデート②
市川 眞一
2024/04/23

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概要

11月5日の米国大統領選挙まで7ヶ月を切り、二大政党の候補者は、事実上、早くも民主党がジョー・バイデン大統領、共和党はドナルド・トランプ前大統領共に絞られた。もっとも、両候補とも決め手に欠け、選挙の帰趨はまだ見えていない。バイデン大統領の仕事ぶりに対する支持率は低迷する一方、全米レベルでは両候補の支持率はほぼ拮抗している。今回の大統領選を大きく左右するのは、”Rust belt(赤錆びた地帯)”と呼ばれる五大湖周辺の重工業地帯6州のうち、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、ウィスコンシンの4州、そしてアリゾナ、ジョージアだろう。この6つのスリングステートに関しては、現時点でトランプ前大統領がやや優勢のようだ。もっとも、今回の大統領選挙はどちらが適任かではなく、どちらがより不適任かを判断基準とする「不人気投票」になりそうだ。過去の例から見れば、無所属候補が結果を大きく左右する可能性がある。また、トランプ前大統領が勝利した場合、”Baseline tariff(基礎的関税)”の導入が懸念されるだろう。



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■バイデン大統領の支持率は低迷

ABC系のニュースサイトであるファイブサーティエイトが有力な世論調査を集計した結果によれば、バイデン大統領の仕事ぶりを「支持する」との回答は引き続き40%を下回っている。特に大きな失政があったわけではなく、経済は堅調に推移しているものの、それが大統領への評価には結び付いていない。要因として考えられるのは81歳の年齢だ。この点は大統領選挙へ向け同大統領にとり懸念材料だろう。



■両者の支持率は拮抗

大統領選挙の候補者が早くも固まったなか、全米規模の世論調査ではバイデン大統領とトランプ前大統領の支持率がほぼ拮抗している。春先までトランプ前大統領が2~5%ポイント程度リードしていたが、このところは差が解消された。トランプ前大統領にとっては、4つの訴訟が痛手と言えるだろう。選挙キャンペーンへの時間的な制約要因である上、選挙資金においてバイデン大統領に大きく引き離された。



■スウィングステートではトランプ前大統領がリード

今回の大統領選挙を大きく左右するのは、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、ウィスコンシンの6スウィングステートだと想定される。ファイブサーティエイトによれば、ペンシルバニアを除き、今のところトランプ前大統領への支持率がバイデン大統領を上回った状態だ。ただし、オハイオ以外については僅差に過ぎない。この大統領選挙は、最後までもつれることになるのではないか。



■1992年はペロー氏が共和党票、2000年はネーダー氏が民主党票を奪う

両候補はいずれも勝つための決め手に欠けているようだ。つまり、今回の大統領選挙は「不人気投票」である可能性が強い。同じく不人気投票だった1992年は無所属で立候補した大富豪のロス・ペロー氏、2000年は消費者運動家のラルフ・ネーダー氏が、前者は共和党票、後者は民主党票を奪って選挙結果を大きく左右した。有力候補の支持が拮抗する今回も、無所属候補が勝敗を大きく左右する可能性があり注目される。



■ロバート・ケネディJrなど独立系候補は選挙結果に影響を及ぼす可能性

今回の大統領選挙において、当初、民主党の使命争いに名乗りを挙げていたロバート・ケネディJr氏は、同党の指名獲得が困難と判断、無所属での出馬へ踏み切った。最新の世論調査では5~10%程度の支持率を得ており、一定の存在感を示している。また、共和党系ではリズ・チェイニー元下院議員が立候補する可能性も完全には消えていないようだ。無所属候補の当選は困難だが、勝者を決める台風の目にはなり得る。



■再選成功、失敗の両グループに経済的特徴

戦後、再選を目指した11名の大統領のうち、再選されたのは7名、されなかったのは4名だった。再選された7名に共通していたのは、1期目の中間選挙後の2年間、米国の経済成長率が2年連続でプラスだったことだ。一方、再選に失敗した4名は、この2年間のどちらかがマイナス成長だった。2023、24年はプラス成長を維持する見込みであり、景気はバイデン大統領にとり追い風になるだろう。



■トランプ政権下で関税率は大幅な引き上げ

トランプ前大統領は、大統領選挙の公約として、”Baseline tariff(基礎的関税)”を掲げている。これは、全ての輸入品に関し10%、中国からの輸入品には最大60%の関税を課すとの案だ。ちなみに、トランプ前大統領が現職であった4年間、米国の関税率は大きく上昇していた。同前大統領は公約を守ることに関して非常に厳格であるため、仮に再選された場合、基礎的関税が導入される可能性がある。



■関税の大幅引き上げ、対抗措置で米国の輸出入は大幅に縮小

1929年秋に米国市場で株価が急落、これを契機として世界恐慌が始まった。主要国の経済が急失速した要因の1つは、米国が『スムート・ホーリー法』を制定、関税率を大幅に引き上げたことだと考えられる。米国の貿易は大きく縮小し、制裁関税を採用した貿易相手国の経済も落ち込んだ。トランプ前大統領が基礎的関税の導入に拘った場合、米国だけでなく世界経済への影響が懸念されよう。



■米国大統領選挙 アップデート②:まとめ

米国大統領選挙は二大政党の候補者が出揃い、本格的なキャンペーンへ移行した。もっとも、世論調査を見る限り、両者の支持率は拮抗しており、どちらに勝利の女神がほほ笑むのか現時点では判断がつかない。従って、選挙結果を想定して投資スタンスにバイアスを掛けるのは得策ではないだろう。そうしたなか、トランプ前大統領が勝利した場合、注意すべきは公約にある基礎的関税だ。米国のインフレ圧力が強まりかねない上、世界的に貿易が失速して経済が悪影響を受ける可能性は否定できない。



市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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