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解散・総選挙のタイミング
市川 眞一
2024/05/28

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概要

報道各社の世論調査において、岸田内閣の支持率は軒並み20%台に低迷している。もっとも、政治資金規正法の改正案が成立すれば、岸田文雄首相は6月23日の今通常国会会期末に衆議院を解散するとの見方もあるようだ。岸田内閣、自民党の支持率が低下する一方、野党への期待が盛り上がっているわけではないため、岸田首相が9月の自民党総裁選挙前に国民に信を問う可能性はある。しかしながら、総選挙で与党が大きく議席を減らした場合、同首相は確実に退陣を迫られるだろう。総裁選へ向け自民党内にかならずしも有力な対抗馬がおらず、今のところ「岸田降ろし」の目立った動きもない以上、まずは総裁選での続投を目指し、その後に解散を考える確率が高まっているのではないか。現時点における世論調査の結果から見れば、自民党は総選挙において比例代表区で議席を大きく減らすかもしれない。他方、1選挙区で1人が選出される小選挙区においては、公明党との選挙協力により、議席の目減りを小幅に食い止める可能性がある。



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■ 支持率は2022年5月をピークに下落

報道各社の世論調査を見ると、岸田内閣の支持率は今年に入り20%台前半で底這いだ。政治とカネを巡る問題には依然として厳しい目が向けられているものの、日本が抱える問題は当然ながらそれだけではない。むしろ、物価高、円安などへ有権者の関心の方が高まっているのではないか。野党がこの点を見間違い、スキャンダル批判に拘泥すると、敵失による俄かな追い風に乗れない可能性がある。



■ 政権交代の鍵は野党の支持率

内閣支持率が低迷する岸田政権、自民党にとり、朗報は野党の支持率が上がっていないことだ。NHKの世論調査では、5月、自民党の支持率が27.5%だったのに対し、野党第一党の立憲民主党は6.6%に止まった。2009年8月の総選挙で旧民主党を中心に政権を奪取した際には、同年7月に旧民主党の支持率が自民党を上回っている。現段階でそこまでの勢いが野党側に感じられるわけではない。



■ 「自民党」との回答は30%を割った

朝日新聞、読売新聞が5月18、19日に行った世論調査によれば、「衆議院選挙の比例代表選挙では、どの政党に投票するか」との設問に関し、「自民党」との回答は朝日26%、読売27%だった。「立憲民主党」は、朝日、読売共に15%に止まっている。両社調査の傾向を見る限り、野党側への期待が高まっているわけではなく、自民党を選択する回答者が減少していると言えるのではないか。



■ 得票率と議席獲得率は概ね一致

衆議院選挙の比例代表区は、全国を11つのブロックに分けて行うため、全国ベースでの得票率と議席獲得率が完全に一致するわけではない。自民党は前回総選挙で得票率34.7%に対し、議席数は定数176議席のうち72議席、獲得率は40.9%に達した。ただし、比例代表区は得票率と議席獲得率の差は小さく、これらの世論調査を前提とした場合、自民党は比例代表区で20議席程度を失う可能性がある。



■ 1選挙区1人当選のため自民党に有利

前回総選挙において、自民党の小選挙区での得票率は48.1%だ。もっとも、定数289議席に対し、同党の獲得議席は189議席、獲得率は65.4%に達した。これは、1選挙区当たり1人を選ぶ小選挙区の特徴を反映している。また、同党は小選挙区での候補者が9名に止まる公明党より全国レベルで支援を得られる。結果として、野党側への期待が相当盛り上がらない限り、自民党は小選挙区では強さを発揮するのではないか。



■ 自民党、立憲民主党共に主たる支持層は中高年以上

NHKが5月10~12日に行った世論調査では、自民党の支持率は27.5%だった。これを世代別に見ると、18~29歳は16.8%と平均を10%ポイント以上下回るものの、世代が高まるに連れて支持率が上昇、60代で平均を超えている。つまり、今の自民党は若年層から敬遠される傾向があり、年齢の高い層の支持で政権を維持していると言えよう。年齢別の傾向は、野党第1党の立憲民主党も同様だ。



■ 政権交代の鍵は野党の支持率

総務省の抽出調査によれば、前回総選挙において、全得票に占める18~29歳の比率は8.6%だった。投票者のボリュームゾーンは40、50、60代であり、その世代の支持を得ることが勝利の鍵を握る。自民党の場合、50代以上からの支持率が高いだけに、現在の選挙の構造は同党にとって有利な結果となる傾向が指摘できよう。逆に若年層の投票率が上がれば、同党にとって厳しい戦いが想定される。



■ 通常国会会期中の1~5月はほとんど解散のチャンスがない

自民党が結党された1955年11月以降、総選挙は22回あった。月別に見ると、最も多いのは11月の5回、それに次ぐのが10月の4回、6月、9月の3回だ。1~5月中が計3回と少ないのは、通常国会開会中であり、予算、重要法案の審議が重なるからだろう。過去の例から見れば、秋の臨時国会で解散し、年内に総選挙を終えた上で、新年には新たな通常国会に臨むのが王道と言えるのではないか。



■ 解散・総選挙のタイミング:まとめ

自民党は多くの派閥が解消へ向かい、集団での行動がし難い状況だ。岸田内閣の支持率が低迷しても、岸田降ろしが盛り上がらないのは、数を集めるメカニズムが働かないからだろう。9月の自民党総裁選に有力な対抗馬がまだ見えないなか、今通常国会会期末に岸田首相が解散・総選挙を行う可能性が高いとは考え難い。政治資金規正法改正案を成立させ、政治とカネの問題に一定の決着を着けた上で、岸田首相は再選を掛け総裁選に臨むのではないか。その場合、解散は10月となることが予想される。


 

 

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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