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自民党総裁選は解散・総選挙の号砲
市川 眞一
2024/09/03

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概要

9月27日に行われる自民党総裁選は、推薦人制度が導入されて以降、最多の7~10名が立候補する見通しとなった。麻生派を除き派閥が解消に向かったこと、有力なキングメーカーが存在しないことが背景だろう。国会議員票は分散が予想されるため、一般党員票が決選投票に勝ち残るための重要な鍵となりそうだ。畢竟、石破茂元自民党幹事長、小泉進次郎元環境相、高市早苗経済安保担当相、河野太郎デジタル改革担当相などが、相対的に優位と見られる。一方、政府、自民党幹部を歴任してきた茂木敏充自民党幹事長、林芳正官房長官などは、党員票の集票が課題と言える。もっとも、決選投票になれば、国会議員票の比重が大きくなるため、組織力が重要となる可能性は否定できない。いずれにせよ、自民党総裁選が終われば、衆議院の任期満了まで概ね1年となる。10月上旬に臨時国会が召集され、首班指名が行われた後、早い段階で衆議院が解散されるのではないか。総選挙の投開票は11月10日を軸に検討される見込みだ。



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■ 課題は推薦人20名の確保

既に小林鷹之前経済安保担当相、石破元幹事長、河野デジタル改革担当相が正式に出馬表明した。今後、小泉元環境相、高市経済安保担当相なども続く見込みで、今回の総裁選の立候補者は7~10名程度になることが予想される。自民党が国会議員20名による推薦制度を導入して以降、最多の候補者は5名だった。今回はそれを大きく上回るため、結果は最後まで読み難い状況と言える。



■ 財政再建派は見当たらず

出馬の準備を進めている候補者は、いずれも正式な政権構想を発表していない。そこで、これまでの言動から推測する限り、財政再建を重視している候補者はいないだろう。ただし、積極論者と消極論者がおり、それは日銀の金融政策に対する考え方にも連動している。積極派は金融緩和の支持者と言えそうだ。また、エネルギー政策に関しては、原発の活用を巡り各候補に考え方の違いが明確だ。



■ 派閥解消で多数派形成に不透明感

自民党総裁選の1回目の投票は、所属する367名の国会議員が1人1票、約120万人の一般党員は国会議員と同数の票が与えられる。立候補には国会議員20名の推薦人が必要なため、10人が立候補すれば、候補者も含め最低でも210名が何れかの陣営に属することになろう。その場合、国会議員の浮動票は実質的に100票程度と見られ、決選投票に進むには、一般党員票の獲得が鍵を握るのではないか。



■ 安倍元首相が実質的なキングメーカー

2021年9月の自民党総裁選では、岸田文雄現首相を本命としていた安倍晋三元首相が、党員票に強い河野氏との一騎打ちを避ける上で、高市氏、野田聖子元総務相の立候補を支援した。その上で、岸田、河野両氏による決選投票では、安倍派、麻生派、岸田派などの国会議員をまとめ、岸田首相を勝利に導いたと考えられる。今回、そうしたキングメーカーはおらず、選挙の帰趨は極めて読み難くなった。



■ 無派閥の小泉、石破、高市3氏が先行

8月24、25日に朝日、毎日、読売各紙が実施した世論調査によると、自民党支持者の間では、小泉氏、石破氏、高市氏、河野氏の支持が先行している。ただし、これは投票権を持つ自民党員を対象とした調査ではない点に注意が必要だ。一方、茂木幹事長、林官房長官など、政府・自民党の幹部は人気がない。それでも、立候補せざるを得ないのは、世代交代の可能性が高まるなか、存在感を示す必要があるからだろう。



■ 内閣支持率低迷でも野党への期待は高まらず

大手メディアによる世論調査によれば、岸田内閣の支持率低迷にも関わらず、今のところ野党への期待が高まっているわけではないようだ。それだけに、自民党の総裁選に先立って9月23日に実施される立憲民主党の代表選に対しての世論の反応が注目される。同党を含めて野党側への期待感が高まる展開になれば、それは自民党の総裁選へも何らかの影響を与える可能性があるだろう。



■ 3年以上の間隔は与党に不利

1955年11月に自民党が結党されて以降、総選挙は22回あった。このうち、前回の総選挙から3年以内に行われた10回のうち、9回で解散時与党第一党が過半数を維持した。一方、3年超で行われた12回では、うち8回で解散時与党第一党は過半数割れした。衆議院の任期は4年間だが、内閣総理大臣にとって、解散・総選挙は3年以内のインターバルで実施するのが鉄則と言えるだろう。



■ 総選挙は11月10日の可能性

自民党総裁選が終わり、新たな首相の下で新内閣が発足すれば、衆議院の任期は3年に接近する。過去の経験則から、新首相は10月中旬にも衆議院を解散、11月10日を目途に総選挙を行う可能性が強い。それは、新内閣に対する国民の信を問うことで、早期に政権基盤を強化できることが理由だ。加えて、解散期を失した場合、衆議院議員の任期満了まで間がなく、選択肢が狭まりかねないからだ。



■ 自民党総裁選は解散・総選挙の号砲:まとめ


今回の自民党総裁選は、概ね1年以内に行われる衆議院の総選挙、2025年7月の参議院選挙を戦うため、自民党の顔を選ぶイベントと言える。特に1回目の投票では国会議員票は分散が想定され、一般党員票が重要な鍵を握るだろう。世論調査の結果を参考にする限り、石破氏、小泉氏、高市氏、河野氏などを軸に選挙戦が展開されるだろう。新首相(新自民党総裁)の下、10月中旬に衆議院が解散され、11月10日を軸に総選挙が行われると見られる。今秋は日米両国が選挙の時期となりそうだ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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