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中国経済の行方
市川 眞一
2024/10/29

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概要

低迷していた中国の上海、深圳両市場において、9月下旬から株価が急上昇した。中国経済の停滞は誰の目にも明らかであり、深刻なデフレが懸念される状況にある。共産党主導で政府、人民銀行が何等かの手を打つよう、マーケットは催促していた感が否めない。そうしたなか、9月24日、中国人民銀行(PBOC)の潘功勝行長が記者会見を行い、「質の高い経済発展に向けた金融支援に関する解説」を行った。これを契機に預金準備率や政策金利の引き下げなど、金融緩和策が行われている。また、10月12日には、仏安国務院財務部長(財務相)が会見、不良債権問題に苦しむ大手国有銀行に対し、特別国債を発行して資本注入を行う方針を発表した。こうした政策の変化を取り敢えず市場は好感しているようだ。ただし、中国経済の本質的な問題は、国営企業や共産党、人民解放軍関連の企業が不採算資産を抱え、銀行の不良債権が大きく拡大した可能性だろう。過剰投資を抑制し、消費主導の経済へ転換するには、かなりの時間を要すると想定される。



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■ 中国株は政策期待で大きくリバウンドした

潘PBOC行長が記者会見で説明したのは、1)預金準備率と政策金利の引き下げ、2)住宅ローン金利の引き下げ、3)証券会社などに資産担保で流動性を供給するなど新たな金融政策手段の創設・・・の3つだった。中国では、金融政策も国務院(内閣)による指導を通じて共産党政権の政策と一体化している。この会見は、財政政策を含めた総合的な経済政策の端緒として、市場に好感されたと言えよう。



■ 若年層の失業率が再び急上昇

中国国務院は、昨年7月、世代別失業率の発表を止めた。同年12月以降は、学生などを除いた上で、年齢区分を3段階とした新たな失業率を発表している。この新統計によれば、16~24歳の失業率は、今年6月、13.2%へと低下した。もっとも、8月は急上昇して18.8%になっている。若年層の失業は社会問題化し易く、政権への強い反発になりかねない。共産党は神経質にならざるを得ないだろう。



■ 供給過剰によるデフレの兆候

9月の消費者物価上昇率は前年同月比0.4%であり、デフレと言って良い状況からの脱却を示唆するものではなかった。ブルームバーグが集計する主要70都市の新築住宅価格指数も、8月は同5.7%低下しており底入れの気配はない。1990年代後半以降の日本で見られたことだが、これは、金融の問題ではなく、過剰供給の問題ではないか。供給サイドの改革による生産性の改善が喫緊の課題だろう。



■ 2024年における政府目標5%の達成は微妙

2024年7-9月期の実質成長率は前年同期比4.6%だった。新型コロナ禍からの経済の正常化後、成長率は緩やかに低下しつつある。国務院が今年の目標とする実質5%の成長率は達成のハードルが高まった。また、名目成長率は同4.0%であり、実質成長率を下回る状態が続いている。これは、中国経済がデフレにあることを示唆するものだ。財政・金融政策で状況を改善するのは難しいだろう。



■ 人民元レートを維持するため大胆な利下げを回避

消費者物価上昇率がゼロ%近辺に低迷し、10年国債の利回りは一時2%割れ寸前へ低下した。PBOCが利下げを行っているとは言え、中国では政策金利の高止まりが目立つ。背景は、人民元(RMB)の価格維持ではないか。中国は国家戦略としてPMBの国際化を目指してきた。ドルに対してPMB相場が大幅な下落を続けた場合、RMBを外貨準備とすることへの躊躇いが生じ、折角の一大プロジェクトが頓挫しかねないだろう。



■ 中国は固定資本投資のウェートが40%を超える

OECDによれば、2022年、中国のGDPのうち固定資本投資が41.9%を占め、日本の25.3%、米国21.9%、EU22.4%を大きく上回った。企業の設備投資に加え、住宅などへの投資が過大であり、過剰供給状態の要因となっていることは想像に難くない。中国が安定成長期へ移行するには、投資主導型経済から消費主導型経済への転換が必要だろう。そのためには、まず供給サイドの改革が欠かせない。



■ 中国の主要企業は国有、もしくは共産党、軍と親密な企業

中国において供給サイドの改革が難しい理由は、政治体制にある。2023年における中国の売上高トップ20社のうち、鴻海精密工業、京東商城、中国平安保険の3社を除く17社が国営企業だった。国有企業の他、共産党、人民解放軍と密接に結び付いた企業は、不採算資産を抱えても表面化し難い。結果として、銀行が不良債権を抱え、実体経済は過剰供給でデフレに陥りつつあるのではないか。



■ バイデン政権による対中政策で中国からの輸入は減少傾向

米国、EUは中国に対し過剰供給力の整理を迫るようになった。ダンピングによるデフレの輸出を恐れていることが理由だろう。また、米国の輸入に占める中国のウェートが低下しているのは、両国関係を象徴するだけでなく、中途半端な投資により中国製品の付加価値が低下、価格以外の訴求力が落ちているからではないか。世界の工場は、中国からASEAN諸国、インド、メキシコなどへシフトしつつある。



■ 中国経済の行方:まとめ


習近平政権が『共同富裕』を掲げているのは、投資主導型から消費主導型への経済の構造転換を意図したものだろう。しかし、そのためには、国有企業や共産党、軍関連の企業を大胆に整理する必要がありそうだ。これは、政治体制に関わるため、民主主義国に比べて難しいと考えられる。財政政策、金融政策で一時的な需要を創出できても、生産性の改善なくして持続力は望めない。中国株はリバウンドしたものの、供給サイドの改革が十分でない場合、短命に終わる可能性が強いのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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