Article Title
与党衆院過半数割れと財政
市川 眞一
2024/11/26

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

10月27日の総選挙で自民、公明両党が議席を減らし、与党が過半数割れしたことで、野党第3党の国民民主党が石破政権の政策に大きな影響を与えている。一方、次の政治の焦点は2025年7月の参議院選挙だろう。これで与党が参議院でも少数になれば、今の枠組みでは政権維持が困難になるのではないか。自民党内では、2025年度予算が成立する3月末以降、石破茂首相に退陣を促して新たに総裁選を行い、参議院選挙へ備えるとの見方も台頭しているようだ。また、新たなリーダーの下で自民党の支持率が回復した場合、衆議院を解散して衆参同一選挙を模索する動きもあるのではないか。政権が不安定化するなか、2025年も国政選挙が待ち構えているため、政はポピュリズム的な色彩が強まった。具体的には、財政政策によるばらまき型の歳出拡大、そして日銀への金融緩和継続を求める声である。それは、結局のところ円安圧力になり、意図せざる基調的でない物価上昇によって実質賃金の伸びを抑制する要因になる可能性は否定できない。



Article Body Text

■ 自民党は参議院でも単独過半数に満たない

衆議院の過半数は233議席であり、総選挙の結果、221議席の自民、公明両党は少数になった。一方、参議院の過半数は現在121議席だが、与党は142議席で多数を維持している。来年7月には参議院選挙が予定されており、参院でも過半数を失うと、自民、公明両党による政権の枠組みが軋むことになりかねない。衆議院における与党の過半数割れで、参議院選挙の重要性は大きく高まったと言えよう。



■ 関税の大幅引き上げ、対抗措置で米国の輸出入は大幅に

全465議席が改選される衆議院と異なり、任期6年で解散のない参議院は定数248議席の半数を3年ごとに改選する。2016年7月の参議院選挙後の一時期を除き、1989年以降、自民党は参議院で単独過半数を確保できていない。それが、連立の時代となった最大の要因だ。与党が衆議院で過半数を失うなか、参議院でも少数に陥れば、他の政党を連立に加えない限り、政権維持は困難だろう。



■ 一般法案、国会同意人事は基本的に衆参両院の権限は同等

内閣総理大臣の指名、予算、そして条約については、衆参両院が異なる議決をした場合、もしくは参議院が決められた期日までに採決しない場合、衆議院の議決が原則として国会の議決になる。ただし、一般法案や日銀総裁などの国会同意人事は両院の権限が基本的に同等だ。2009年8月の総選挙で自民、公明両党が政権を失った際は、2007年7月の参議院選挙での大敗がその伏線になった。



■ 同日選挙で自民党は2回とも圧勝した

2025年7月の参議院選挙へ向け、内閣、与党の支持率が低迷した場合、2025年度予算が成立する3月末を目途に、自民党内では石破茂首相の交代論が強まるだろう。4月に総裁選が行われる可能性は十分にある。新総裁(首相)の下で与党の支持率が顕著に回復すれば、衆議院を解散して衆参同日選の可能性も視野に入るのではないか。過去2回のダブル選挙では、いずれも自民党が圧勝した。



■ 103万円は「壁」ではない

当面の政策に関しては、予算、法案の衆議院通過を担保する上で、自民、公明両与党は野党第3党の国民民主党に配慮せざるを得ないだろう。国民民主党は所得税に関する「年収103万円の壁」引き上げを主張しており、来年度へ向けて法改正が進む可能性はある。ただし、被扶養者のパート、アルバイトによる手取り収入に関しては、社会保険の加入義務が発生する「106万円」、「130万円」の「壁」の方が圧倒的に重要だ。



■ 直接税の負担は増えていない

2023年の家計調査で所得5分位の負担する税、社会保険料を10年前と比べると、直接税は増えていない。増加したのは、税率が上がった消費税及び社会保険料だ。一方、社会保険料の壁を議論する上では、専業主夫・主婦の老齢基礎年金の受給権の見直しが極めて重要である。しかしながら、選挙を控えてそうした本質には踏み込まず、分かり易い「103万円の壁」が議論されているのではないか。



■ 歳出の増加は社会保障費と国債費が主因

2024年度の一般会計予算は総額112兆5,717億円であり、30年前と比べ40兆6,859億円増加した。内訳は、社会保障費21兆1,541億円、国債費13兆4,034億円であり、両項目で37兆5,576円に達している。これは、高齢化と社会保障サービスの充実、国家債務の増加によるもので、減らすのは極めて難しい。さらに財源のない減税を実施した場合、国債発行額が大きく増加することになえるだろう。



■ 税収は過去最大だが所得税、法人税は1991年度を下回る

2023年度の税収は決算ベースで過去最大を更新したものの、所得税、法人税は1991年度の水準に達していない。消費税の税率引き上げがなければ、財政の悪化は更に進んでいたものと見られる。こうした状況において、歳出の拡大、減税を実施した場合、国債市況のみならず、円にも売り圧力が掛かるだろう。非基調的要因である円安で物価が上昇すれば、実質賃金は伸びない可能性が強い。



■ 与党衆院過半数割れと財政:まとめ


政治が不安定化したことで、小政党が大政党の政策決定に大きな影響を与え、結果として政策においてポピュリズム色が強まりつつある。ただし、歳出の拡大、減税などのポリシーミックスは、その成果としての経済成長、そして将来の税収増が明確に説明されない場合、市場における国債売り、円売りを誘発する可能性が否定できない。結果として、日本でもインフレ圧力が構造化するのではないか。資産運用立国へ向けた政策を十分に活用し、金融資産の運用によってインフレに備える必要があるだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米国景気が堅調な二つの背景

トランプ次期大統領の「基礎的関税」 日本へのインパクト

ATDによる7&iHD買収提案が重要な理由

米国はいつから「資産運用立国」になったか?

米国大統領選挙 アップデート⑤